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貴族もどき、に、ロアの学生が顔色をかえたが、そちらがなにか云う前にリッターくんが云った。
「俺が他人の力量を測るのが下手だと云いたいのか?」
「は? い、いえ、そんなことは」
「それについては否定しない。が、サキが強いことは、見ていたお前達にも解るだろう。俺より遙かに上手に手加減するお前達なら」
かすかに棘のある調子だった。審判をしていた学生は口を噤む。
サキくんが手をさしのべ、リッターくんがそれを掴んで、握手した。手はすぐにはなれる。「僕の負けだよ」
「ああ。何故還元をつかわなかった」
「つかわなくても勝てるかと思ってね。でも無謀だった。情けない姿をさらしたな、僕も」
サキくんが肩をすくめ、リッターくんは頷いて、こちらを見た。
思いっきり目が合ってる。しかし、なに決闘なんてしてるの約束したでしょ、と叱る訳にもいかない。相手は入山者、俺は単なる下働き、間には越えられない隔たりがある。俺がなれなれしく喋ることで、リッターくんが孤立してしまったりしたら、申し訳ない。
だから俺のことは放っておいてもらいたかったのだが、リッターくんは小首を傾げた。叱られるか、誉められるか、とりあえずなにかしらリアクションはあるものだと思っていたのだろう。
だからか、リッターくんはつかつか歩いてきた。俺は慌てて逃げようとする。が、リッターくんに両手首を掴まれるほうがはやかった。
「マオ」
「あ。は、はい、なんでしょうか、ロヴィオダーリ卿」
舌を嚙みそうになった。あぶねえ。
「……なにを云っている」
ぐっとリッターくんは眉を寄せる。俺は左右のファラワさんとアロさんに助けを求めようとするが、ふたりとも軽く俯いていた。ど、どうにかしてくださいよ!
リッターくんはじっと俺を見ている。「……マオ」
「はい」
「怒っているのだな……」
はい?
リッターくんはなんだか哀しそうに云って、項垂れ、俺から手をはなした。ほっとしたのも束の間、リッターくんはその場へ片膝をつく。
びくっと片あしをさげた。リッターくんは捨てられた仔犬みたいな目で、俺を仰いでいる。学生達がざわめく。「ロヴィオダーリ卿?」
「なにをしてらっしゃるんです」
リッターくんはそちらには答えず、俺に云う。
「すまなかった。ゆるしてくれ」
「は?」この子察しがよくない!「いえあの。俺がロヴィオダーリ卿をゆるすとかゆるさないとかそんなおこがまし」
「ゆるしてくれないのか。どうしたらいい」
わー泥沼だ。どうしたらいいのか訊きたいのはこっちだよ。




