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相変わらず俺の間は最高に悪いみたいだ。
「サキ、随分と余裕があるらしいな」
低くて平坦な声だ。サキくんがゆっくりそちらへ顔を向ける。俺もそうした。「しかし、奉公人をからかうのはよせ。みっとも……」
リッターくんは、俺と目を合わせて、口を噤む。
そういえばここは、帝国寮の庭だ。リッターくんが居たって、なにもおかしくはない。寧ろ、サキくんが居るのはおかしなことだ。迷ってこちらまで来るということもないだろう。帝国寮と連邦共和国寮は、かなり離れている。
サキくんは微笑んで、俺を更に引き寄せた。苦しいくらいだ。
「やあ、リッター。たまたまマオさんを見付けたんだ。君より先に。でも、丁度いいと思わないか? 前の決闘では、君の情けない姿をさらしてしまったんだし、今度は頑張るところを見せたらどうだい」
「成程」リッターくんは淡々としている。「それはよい考えだ。マオにはこのところ、俺の不甲斐なさばかり見せている。いい加減愛想尽かしされるかと怯えていた。マオに誉めてもらおう」
ん? 決闘? なに、この子達また決闘なんかするの? 冗談でしょ。
俺はサキくんの上着をひっぱる。「ちょ、ちょっとサキくん、約束したでしょ? 決闘はしないって」
「ごめんなさいマオさん、後で跪いてゆるしを請います」
「待って……」
サキくんはにこっとして、俺の頬っぺたに軽く口付け、離れていった。美少年感凄い。
俺を見付けた時に置いてきたらしい杖を拾い、サキくんはリッターくんのほうへと歩いていく。俺は追い縋ろうとしたが、アロさんとファラワさんに腕を掴まれてひき戻された。
「マオ」
「説明」
「え……」
見る。ふたりは困ったみたいな顔だ。その向こうで、ランスさんやサフェくん、ワウラさん達も、困惑している。
あ、俺って奉公人じゃん。なに、入山者と普通に喋ってんの。
へまをした。やっぱり、間が悪い。ちゃんと敬語で喋るべきだった。サキくんやリッターくんが、ほかの入山者から変な目で見られてしまう。奉公人からも。
俺は苦笑いになる。「えっと、あの。サキさま、知り合いなんです。リッターさまも」
「ロヴィオダーリ卿と?」
「はい。四月の雨亭の常連でらしたので」
「ああ、そういうことか」
「そっか、評判だものね、マオが勤めてたとこ」
その説明で納得してくれた。俺はこくこく頷いて、リッターくん達へ目を戻す。ふたりともすでに武器をかまえ、向かい合っていた。決闘なんて危ないことは辞めなさいってば! 怪我するかもしれないしおなかが減るよ!




