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そういう子達に、歳上に敬意を払えとか、お礼ぐらい云いなさいとか、そういう言葉は無駄だ。大体、誰かを敬うのも、お礼を云うのも、当人がやりたかったらやることであって、周りが強要するのはおかしい。
ケルネスさまは、ご飯のお礼云ってくれて、通行手形もくれたし……セティさまも、あのあと一度顔を合わせて、今日は飯が旨かったから料理人を誉めておいたぞ、と云っていた。昨夜のターカック嬢だって、どのドレスか決まったわありがとう、と涙ぐんでいた。
罵ってきたり、やたらつっかかってくる子も居るけれど、そうやってお礼を云ってくれる子だって居る。だから、悪いほうばかりを気にしなくてもいいと思うんだけどな。
考えながら草むしりをしていたので、ぼーっとしていた。「まおさん」
立ち上がる。振り返る。サキくんが居た。
お互い暫く、口を半開きにしていた。それから、俺がなにか云う前に、サキくんが走るようにやってきて、思いっきり抱きしめられた。
後生大事に握りしめていた草が落ちた。
「さ。サキくん」
「驚いた。みんな、ひとが悪いんだから」
……あ、セロベルさん達、伝糸で報せてないんだ。もしくは、伝糸経由の手紙でも。
サキくんは俺に頬摺りして、低声で云う。「一昨日食べたスープの味が、マオさんのに似てたんです。だから、もしかしてと思ってたけど」
「凄いねサキくん、慥かに俺、一昨日連邦共和国寮で、お料理のお手伝いしたよ」
サキくんは俺の肩を掴んでぱっと体を離し、目をあわせてくる。
「マオさん、会ったのは僕が最初?」
「うん? あ、そうだったよね、約束。ごめん、時間かかっちゃって。お仕事覚えるの、大変だし、時間もなくて、あとまだ自由行動できないんだよね」
ぎこちなく笑う。サキくんは俺があらわれるのを待っていてくれたのかもしれない。なのに、悪いことをした。こどもとの約束をまもれない大人は最低なんだぞ。
サキくんは、けれど、にこっとした。もう一度、きつく抱きしめられる。
「いいんですよ。僕は今凄くしあわせな気分なんです。マオさんが居てくれて」
「あ、そう……よかったね」
「はい、とっても。……マオさん、冷たいんじゃないですか?」
俺の間のぬけた返事に、サキくんは真面目に返してきた。俺はちょっと迷って、もぞもぞ体を動かし、両腕をそっとサキくんの体にまわす。奉公人に抱き付かれるなんて、サキくんの株が落ちそうだけれど、俺もサキくんをぎゅっとしたい気分なのだ。
サキくんは嬉しそうに、低声で云った。「今だけ、僕のものですよ、マオさん」




