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誰もなにも云わない。多かれ少なかれ、みんな思っていることだからだろう。俺も、やたら罵ってくる学生には、辟易する。だからディロさんの気持ちは、解らないでもない。
でも、相手は子どもで、こっちは大人だ。子ども同士でいじめをするくらいなら、大人相手に文句を云うのが、健全だと思う。大体、あれくらいの年代は思考の八割が不満だろう。自分と他人を比べて、苦しくてたまらない時期だそうだ。
俺は、成長期の不安定な心が云わせていることだし、罵られたからって本当になる訳じゃない、と思って、聴き流している。罵られたくらいでそれが現実になるなら、その辺にもともと人間だった豚がごろごろ歩いている筈である。逆もまた真で、花のように美しいなんて云われた日にゃあ、お花になっちゃうってことだもの。
そういうのもあって、俺は、ああもがいてるね、可愛いな、と考えて、にやにやしているのだが……ディロさんは、巧く聴き流せなかったみたいだ。
「ねえ、ディロ」
「とにかく、もう限界。疲れたの。必死に頑張って手にいれたものが、こんな……これなら、レントで家政婦やってるのと、かわらない。ううん、もっと悪いよ。どうしてあんなに態度の悪い子達が入山できて、わたしは……」
ディロさんはぱっと両手で顔を覆い、黙ってしまった。ワウラさんがそのせなかを優しく撫で、メイリィさんが恢復魔法をかける。
厨房からファラワさんが出てきた。
「帝国寮にご飯をつくりに行く時間だよ。みんな集まっ……どうしたの?」
いつも元気いっぱいのディロさんが、椅子に座って動かないことに、ファラワさんは動揺を見せる。困ったみたいな眉が更に困った。
ランスさんが二・三回、口を開けたり閉じたりしてから、云う。「あの……ディロ、奉公人を辞めたいって」
「あ……そうか。解った」
え、解るの? ディロさん、退職ってこと?
狼狽えている間に、ファラワさんはディロさんの傍まで来て、云った。
「ディロ、疲れたんだね。今日は休みなさい。部屋で寝てて。癒し手の先生を呼んで、治療してもらおう」
「……わたし」
「もし辞めたいとしても、いきなり辞めることはできないんだ。癒し手の先生に治療してもらって、ジアー先生と話し合って、必要があれば数日療養して、それでも辞めたかったら辞めていい」
ファラワさんは哀しそうだ。
「でも、僕としては、頑張って試験に通って奉公人になったんだから、できたら辞めてほしくない。どうしてかというと、ね、ディロ。君は僕達の仲間だからだよ」
ディロさんはなにも云わなかった。




