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要するに、ちょっとなれなれしいだけで善良なひと、なのだ、ストリイ先生は。
サフェくん達から、小さな布袋いりの髪の毛のおまもりを贈呈され、ストリイ先生は子どもみたいに喜んでいた。肌身離さず持っています、と。
回想しているうちに、広間についた。と、なんだか雰囲気がくらい。俺とサフェくんは顔を見合わせる。さっきまでみんなでわいわいお喋りしていたのに、今は静かだ。
ちょこんと椅子に座って項垂れるディロさんの傍に、ワウラさんが屈み込んでいた。「ねえ、ディロ、どうしたのよ? なんだっていきなり、辞めるなんて云うの」
辞める?
俺とサフェくんは、そちらへ駈け寄る。辞めるって、ディロさんが? どうして?
俺達は声も出せず、テーブルの近くに立って腕を組んでいるランスさんを見詰めた。ランスさんは困った顔で、小さく頭を振る。声に出さず、わかんない、と云っていた。ルクトくんや、ほかの奉公人達も、似たような表情だ。
ワウラさんがぎこちなく微笑む。ディロさんの膝頭を優しく叩く。
「昨日まで楽しくやってきたじゃない。ほら、なんだっけ? あたしまだ名前を全部覚えてないのよ。ほら、連邦の、貴族のオジョウサマがさ、あたしに難癖つけてきたでしょ、なんだか解らないけど。奉公人が生意気だって。でもあんたが庇ってくれたじゃない。かっこよかったよ、とっても。あんた、あのオジョウサマの名前もちゃんと覚えてたし、毅然としててさ、あたしは黙りこんでたのに。きちんと奉公人の仕事をこなしてるなって思ったのよ。それがどうして、突然辞めるなんて」
「突然じゃないの」
ディロさんは項垂れたままだ。太腿へおしつけるようにして握りしめた拳はまっしろで、震えている。声も、泣くのを怺えるような調子だった。
「そんな。ねえ、一緒に頑張ろうって、云ったばっかでしょ」
「わたし、我慢してた。我慢してきた。御山にはいる為だって、つらくても割のいい仕事して、切り詰めて、食べたいものも着たいものも我慢して、昔は演劇も好きだったけどもう何年も行ってないし、故郷にだって何年も戻ってない。それだけ我慢して我慢して、結局手にはいったものってなに? 入山者から毎日怒鳴られる権利じゃない。それも、運がよければ攻撃魔法もついてくる、特別待遇」
皮肉っぽくて、きりきりと突き刺すような言葉遣いだった。
ディロさんは上体を丸める。「毎日々々、口汚い悪罵で、頭のなかがいっぱいになる。自分がくずかごになったみたいな気持ち。もういやなの」
感想ありがとうございます。登場人物表つくりました。




