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さんざっぱらお昼ご飯を食べたのに、見ているだけでおなかがすいてきた。ローストビーフ、ビーフシチュー、ステーキ。あとは、ハム、腸詰め、ベーコンなどの豚加工品も。鳥肉もちらほら。
あ、そうだ。
神聖公国寮の広間は、白っぽくて明るい空間だった。テーブルには白くて、縁に黄色でぬいとりがされているクロスが、丁寧に掛けられている。椅子は背凭れにもクッション性があるもの。
その椅子に、ケルネスさまはふんぞりかえっていた。脚を組んで腕も組んで、相当に不満げな顔だ。ほかの学生達もぽつぽつ戻ってきているそうだが、皆湯をつかってから社交室へ行くので、まだこちらには寄りつかない、とのこと。
俺はできあがったお料理をのせたお膳を、恭しく運んでいった。つくったやつに運ばせろと仰せだったのだ。
ぴくっとケルネスさまの眉が動く。その前にお膳をおくと、おお、と感嘆の声をもらした。
トレイにのっているのは、五種類。
小振りでまんまるな、かりっとした表面がおいしいパン。
ふかしたじゃがいもにバターの塊をのせただけのもの。
ジャムを煮詰めて多めのゼラチンでかため、糖衣をまぶした、やわらかいグミのようなかたいゼリーのようなお菓子。
切り刻んだお野菜がたっぷりはいった、牛ストックのスープ。
そして、ほうぼうとあさり、かきのりんご酒むし、パセリバターぞえ。
ケルネスさまは脚も腕も解き、小さく食前のお祈りをする。すっと優雅にナイフとフォークをとる。
簡単なことだった。この若さまは、お魚を食べたかったのだ。
「若さまのお母上さまは、オーウェンダルト家のご出身だとか。オーウェンダルト領は貝の産地として名高いと聴きました」
「お前、俺の母の生家まで覚えているのか」
「勿論です」
にっこりした。まあ、覚えてたけどさ、オーウェンダルトが貝の名産地っていうのは、あれだよ。俺がりんご酒むしをつくりはじめたら、料理人のひとりがそう云ってたからってだけ。
ああ、お魚と貝は、ここの厨房にはなくて、一般寮から持ってきてもらった。魚食が盛んな小国から来ている子が居て、そっちには沢山ストックされていたのだ。毎日海産物の商会から買うんだって。莫大なお金がかかると思うんだけど、学生に衣食住で不足があってはならないってのが御山の考えかたらしい。パフォーマンスが落ちるから、勉強や研究にも響くってこと。
ケルネスさまは、器用にかきをからから外し、バターをたっぷりつけて、口へ運んだ。ぱっと表情が明るくなる。笑うと歳相応の、可愛い顔になる。
「旨い。久し振りにまともな食事になりそうだ。ありがとう」




