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でも、遅かったみたい。みんな細かいことが気になる性質で、草むしりが楽しかったんだと思う。西の空がうっすら赤くなっている。
「おい、そこの」
いざ、隠し扉へ向かう為に、神聖公国寮から離れようとしていた俺達を、木立からあらわれた学生が見咎めた。
実技の授業終わりかな。一年生は、今は毎日実技があるらしい(先生の気まぐれで授業内容はかわるそうだけれど)。だから、一年生だと思う。
「なにか食べられるものをつくれ」
綺麗な深い紫色の髪を、胸の下くらいまで伸ばした、ピアスをじゃらじゃらつけた男の子だった。ヴィジュアル系だなあと思う。切れ長の目、瞳は淡い緑。血色がいい。身長は俺と同じくらいか、ちょっと高い。痩せ型。
先輩達が目を伏せた。俺達新入りもそれにならう。アロさんが云う。
「若さま、社交室へいらっしゃれば、料理人が」
「俺の好むものをつくらぬ。正直あの料理人は気にくわない。だからお前達がなにかつくれ」
ぷいと顔を背け、若さまは寮へと這入っていった。ありゃあ。
アロさんが片手を軽くあげた。
「お料理得意なひと」
手をあげたのは俺だけだ。ええー。
俺、アロさん、エイジャさん、の三人で、神聖公国寮へ這入った。残りは「家」へ戻る。ディファーズ料理が得意な料理人を派遣してくれるそうだ。
とはいえ、お風呂で泥を落としている若さまが、そう長風呂してくれるとも思えない。なので、俺は腕まくりして、早速手を洗った。枯れ葉とか草とか触ったし、いつもより入念に。
神聖公国専属の料理人達は、俺達が経緯を説明すると泣きそうになっていた。でも、厨房はかしてくれる。材料は沢山あるし、調理器具も綺麗、調理台もぴかぴかだ。おいしいお料理つくってくれそうなのに。
「ケルネス・ユヴァッシャンダさまは、なにがお嫌いなんですか?」
アロさんが目をぱちぱちさせる。「もう覚えてるの、名簿」
「少しだけです。それで……」
「あの若さまは、ここの料理はとにかく口に合わぬと、いつも仰言います。毎度、半分もめしあがってもらえず」
ここの厨房を仕切っているらしい料理人が云った。はあー、と溜め息を吐く。「入山以来、あの若さまにはどうにも、満足にお食事して戴いていません。おいたわしい。情けないです」
「そうですか……あの、献立表ってあります?」
料理人が壁を指さす。はりつけられた羊皮紙に、みっしりと献立が書いてあった。牛肉メインがほとんどだな。桑の実ソースで煮込んだ牛肉とか、ステーキにすぐりのジャムを添えてるのとか、おいしそう。




