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にこにこしてご飯を食べる若さまを残し、厨房へひっこんだ。様子をうかがっていたアロさん達が、吃驚した顔で迎えてくれる。「マオ、度胸があるね」
「そんなことないですよ」
料理人達は、分厚い本をめくって、ぶつぶつ云っていた。俺が、献立がお肉に偏っていること、若さまの母親が海に面した領の出身であること、などを説明したら、ディファーズの魚介料理の本をひっぱりだしてきて、必死に読み込んでいる。
ディファーズでも海辺か、大きな川沿いくらいでしか、魚食はしないらしい。そして、大多数の学生がお肉料理で納得するので、これまで魚介料理はほとんど出してこなかったし、調理した経験も少ないそうだ。これから沢山練習すると云っていた。練習でつくったやつ、食べさせてもらえないかなー。
にやにやしてしまっていたらしい。エイジャさんに鼻をつままれた。
「すごいな。若さまに喜んでもらえて」
「入山してからまともにお食事してらっしゃらなかったんだもの、マオはとてもいいことしたよ」
「え? あ、そうですね。えへへ」
うーん。やっぱり奉公人って、ひとのお世話するのが好きなひとが生き残っていくんだ。横柄な口調にも動じず、ご飯ちゃんと食べてなくて可哀相、と思えるのだから。……でも慥かに、入山からふた月も、慣れない食事でつらい思いをしていたと考えると、可哀相か。
なんかおいしくないんだけど、自分でもなにを食べたいか解らなくて、いらいらする……っていうの、あるらしい。若さまも、魚介を食べたいんだけど自分でそれが解ってなかったんだろうな。俺はいつだって自分がなにを食べたいかはっきりしてるけど、みんながみんなそうじゃない。
結局、別件で忙しかったそうで、助っ人料理人は間に合わなかった。寮へ戻ると、厨房担当の先輩から、お詫びにと、ほかのひとより多くチーズケーキをもらった! 旨すぎて体が蕩けそう。
お茶の時間、チーズケーキとさっぱりした飲み口のお茶を楽しんでいると、私兵の集団が這入ってくる。先輩達がかいがいしくお世話していた。俺達新入りは、なんとなくそれを眺める。
「真似できないわ」ランスさんは午后もたっぷり疲れたみたいで、テーブルに伸びている。「ほんと、奉公人には根性が必要だって、意味がよっっっく解った。並大抵の人間じゃできないってことよ。そんでわたしは並大抵の人間」
「ランス、あんたよくやってたよ。ほら、ディロもさ、食べないならあたしが食べちゃうよ」
ワウラさんが右隣のランスさんを慰め、左隣のディロさんに笑みかける。ディロさんはむっつりとへの字口になっていたが、ワウラさんの言葉ににこっとして、フォークをとった。「ワウラがふとる手伝いはしないよ」
「あ、云ったね」
「ふふ。よし、沢山食べて、明日も頑張ろー!」
ディロさんは元気よくチーズケーキを食べはじめ、ランスさんがそれを見てくすっとした。少し、元気が出たみたい。よかった。




