2095
アーシェさんに雑巾を乾かしてもらって、戻ると、広間は完璧な状態だった。外から戻ってきたくつであがりこむのが申し訳ないので、俺は廊下から、エイジャさんに声をかける。「雑巾、洗ってきました」
「ありがとう。それじゃあ、次は、地下の社交室へ行こう」
俺が家具を収納する。エイジャさんとメイリィさんが、家政魔法を駆使しつつ天井と壁を綺麗にする。俺はその補助。頻繁に雑巾を洗う係。その後三人で床を磨き、拭き、ワックスを掛け、家具を綺麗にしながらもとの通りに配置する。
流れができあがっていたので、作業はスムーズだった。でもやっぱり雑巾は足りないので、そのことをエイジャさんに云うと、持ち運べるのならそうしてもかまわないと許可してもらえた。
雑巾は、奉公人の寮の、広間に向かって右にある部屋で、大量に保管してある。デッキブラシとか、箒、ちりとりとかも、そこにあるそうだ。雑巾は、その日の最後の掃除が済んだら洗わずに持って戻って、洗濯場に任せてもいいんだって。
洗濯場はどんなところなのか訊くと、一番ひろいところは奉公人寮のなかにあって、そこは朝から晩まで延々お洗濯をしている、と返ってくる。
御山において、洗うものは数限りない。シーツや枕カバーは毎日とりかえるし、学生達は毎日きがえ、先生達もそうだ。ほとんど閉鎖された環境だから、ひとり風邪をひいたら蔓延するおそれもある。実際、ある寮だけ酷い風邪がはやって、錬金術士や調剤士の先生や学生達が疲労困憊、なんてことが、過去に何度もあったらしい。インフルエンザかな。まあ、だから、衛生に対して厳しいのである。いいことだよね。
しかも、研究内容によっては酷く汚れたり、逆に多少の汚れで結果がかわったりするから、もの凄く清潔な状態の服しか着ない先生も居る。要するに洗濯場は、休む間もない。
そんな重労働だけど、体力が高いひとが配属されるし、お給料に上乗せがあるから、一部の奉公人の間では人気の部署らしい。学生とは、顔を合わせなくてすむのだろうな。サフェくんは体力低いみたいだから、無理だろうなあ。
地下にはほかにも部屋があった。物置だ。学生達は実技の為に武器や防具を沢山持ちこむけれど、それすべてを自分の部屋へ置いておくことは、物理的にできない。だから、地下か、一階の物置にしまう。大体、一年生は地下で、二年生は一階、だって。帝国寮の場合。
物置は雑然としていた。なんていうのあれ? 槍とか長刀みたいな長い武器を置いておく、ラックみたいなのが並んでいて、それぞれに名前を書いた羊皮紙がはりつけてある。名簿で見た名前が沢山だ。




