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「なんとなく」
子役をやっていたからか、目からはいってきた情報を記憶するのは、どちらかというと巧いのだ。まあ、親に読んでもらって覚えるって子も居たけれど、俺はがっつり読んで覚える派だった。
名簿も、台本感覚で読んだ。とりあえずめくったくらいでも、特徴的なひとは覚えている。そう、キャラが立ってるっていうか、このひと凄いな、とか、かわってるな、とかは、ちょっと見ただけでも記憶できていた。やっぱり、インパクトが強いと、記憶すると思う。
別に、セティさまが優秀だというのは、嘘じゃない。入山試験合格時、なんと十二歳! ほんとに優秀なのである。だから、すっごい若さで合格してるじゃん、と、印象に残っていた。で、制服を洗いながら、学生のなかでも若くて髪が水色で帝国で、と候補をしぼっていって、云ったらあたったのだ。
耳からはいってきた横文字っぽい名前は覚えにくいけど、読むと覚えられるから、不思議だよな。
「あし、洗おうよ」
「あ、うん」
しかし、そうかあ。入山経験者が云っていた、「つらいこと」って、これだったのな。慥かに、精神的につらいだろうな。
俺は平気。アフィテルディとかアデイールみたいなのと比べたら、あんなの可愛い。色々云っていたけれど、ぬかるみもなんとかしてくれてたみたいだし、いい子じゃん? セティさま。
雑巾をゆすぎ、サフェくんに乾かしてもらう間にばけつを洗った。適材適所、助け合い、持ちつ持たれつ、である。
雑巾を選り分けて、乾かしたばけつにつっこみ、俺達は寮内へ戻る。あしは、俺が持っていたタオルで拭いた。
「成る丈、学生達とあわないところに配属されるといいな」
サフェくんはセティさまが余程こわかったのか、そんなことをぶつぶつ云う。「あんなにこわい子が居るなんて。……あれくらい気が強くないと、入山できないのかなあ」
「そうかもね」
それはあるかもなあ。せまき門だし、心を強く保っていないとどうしようもないのかも。
サフェくんは上の階なので、一階の廊下で別れた。社交室へ戻ると、俺がもたついている間に、エイジャさんとメイリィさんで、床のワックス掛けも終わらせてしまったみたいだ。床はぴかぴか、目に眩しい。
「すみません、遅くなって」
「いいよ」エイジャさんは微笑んで、俺の手からばけつをとる。「わ、まっしろになってる。洗滌人みたいだね。これだけ綺麗にしてくれたんなら、次の掃除が楽だし、多少遅れてもかまわないよ」
メイリィさんがばけつを覗き込み、こっくり頷いた。




