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なんとなく剣呑な目付きだし、学生には気を付けるようにと耳にたこができるくらい聴かされていたので、俺はたらいを出てそちらに向いた。サフェくんを引っ張り出して、軽く頭を下げる。
男の子は、まだ中学生くらいかな。はやめの入山だと思う。幼いけれど、威圧感はあった。リボンをあみこんだ水色の髪の毛先には、かすかに泥がはねている。制服も汚れているみたいだった。「ここでなにしてる?」
尊大な口調だ。サフェくんは蛇に睨まれた蛙で、青くなって動かない。俺はちょっと目を伏せたまま応じる。
「掃除です」
「お前じゃなくてこいつに訊いてる。黙ってろ」
おおう、とんでもなく喧嘩腰だな。元気がいいのはいいけれど、ちょっと失礼だぜ。
サフェくんは俯いて云う。歳下からこんなにも高圧的な態度をとられたことがないみたいで、声が震えていた。
「あの。掃除です。雑巾を洗っていました」
「ふん」
わあ、ほんとにふんって云った。面白い子だな。
男の子はくいと顎を上げた。
「邪魔だ。どけ」
「え? でも、まだ」
俺はサフェくんをひっぱって、洗い場の隅へ押しやる。雑巾のはいったたらいをまるごと収納して、サフェくんをせなかに庇った。
「どうぞ、卿。もし失礼でなければ、なにかお手伝いいたしましょう」
「……お前、いい心がけだな。まあ、お前達が仕事を怠って、あんなところにぬかるみがあるのが悪いんだ。これを洗え」
ぽいと上着を投げて寄越す。俺はそれをうけとって、にっこりした。成程、ぬかるみから泥がはねたのか。「かしこまりました、卿」
制服の生地はきゃらこっぽかった。足袋に似た質感だ。これなら普通に洗って大丈夫だろう。失敗したらその時。
俺はお湯と洗濯用のせっけんをつかって、丁寧に上着を洗った。男の子は髪の毛についた泥を、水魔法で洗い流し、風で乾かしていた。
泥がはねている以外は、上着はそもそも綺麗だし、すぐに洗い終わる。「サフェくん」
「え? ……あ、はい」
生憎、俺は洗濯ものを乾かすことができない。サフェくんにやってもらった。男の子はなにも云ってこないので、大丈夫だろう。
肩のところが型崩れしないよう、詰めていたタオルを外し、前後左右から慥かめて、笑顔で男の子へさしだした。「お待たせいたしました」
「ああ、随分待った」
男の子はやはり尊大に云って、上着をひったくり、袖を通す。
「ちゃんと仕事できるんじゃないか。ぬかるみを放置するなよ」
「申し訳もございません」
「……お前達、新入りか?」
今気付いたらしい、目を細くして、男の子は俺達を見ている。




