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汚れたばけつと雑巾を洗いに、外へ出た。これから、まだ窓と扉のお掃除が待っている。エイジャさんとメイリィさんは、ピアノ磨き中。
人気のない社交室と云ったって、学生達はつかっているし、窓と扉はひとが頻繁に触れるものだ。きっちり清潔にしないと、お叱りがあるらしい。ジアー先生からかな、と思ったが、ならそう云う気もする。学生達なのかもしれない。
「あ、サフェくん」
「マオ」
サフェくんも、ばけつと雑巾を洗いに来たみたいだ。
寮の出入り口からすぐ近くに、手洗い場のような場所がある。石のタイルが敷かれた、一段低いところだ。当然のように上水道はないけれど、排水設備は整っている。学生達が、実技で汚れた時に、手や顔なんかを一旦ここで軽く洗う。そう云う場所らしい。
サフェくんはローブの袖をまくり、屈み込んで、雑巾を洗っていた。成程、奉公人のローブの丈が短いのがどうしてなのか、よく解る。屈んでも地面につかないのだ。
「どこのお掃除?」
「一番上の階の、学生の部屋。全部やるんだって」
隣に屈み込みながら、思わず顔をしかめてしまった。大変な作業だ。
だが、洗濯板をつかってわしわしと雑巾を洗うサフェくんは、にこっとする。「家政職のひと達が居るから、心強いよ。ぼくはできることやろうと思って、これ。マオが教えてくれた、お洗濯」
「あ……そっか。じゃあ俺も、できることやろう」
笑み返した。
大きなたらいを出して、お湯を注いだ。ティーくんが餞別にくれた、お洗濯用の粉せっけんを溶かす。解んないけどなんとかえんってのがはいってるんだって、と云っていた。炭酸塩だろう。ソーダ灰ってやつ。お洗濯で活躍してくれる。
俺が持ってきた雑巾も、サフェくんが持ってきた雑巾も全部一緒にいれた。サフェくんは洗濯板(昨日買ったのだ)を収納して、ふたりともくつを脱ぎ、ずぼんの裾をまくって、たらいにはいる。
サフェくんがくすくすした。「ちょっと熱いね」
「これくらいのほうが汚れが落ちるんだよ」
背中合わせになって、腕を絡め、ずぼんが落ちないようにからげて、ぐるぐるまわる。サフェくんは小さく歌っていた。こちらの世界の歌に関して、俺はほとんど知識がないが、サフェくんは多分歌が巧い。
もうそろそろかな、と思ったところで、サフェくんの動きが停まった。声もしない。
「サフェくん?」
腕を解く。肩越しに見る。サフェくんは動かない。
ずっと向こうに、こちらを見ているひとが居た。学生だ。男の子がひとり。その子は何故か、俺達をきつく睨みながら、こちらへやってきた。




