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「マオ、元気でね!」
「つらくなったらすぐに下山しろよ!」
「差しいれするから!!」
もと・娼妓達が馬車に追い縋り、励ましてくれた。俺はサフェくんを押し退けるみたいにして、出入り口近くへ移動し、彼らに手を振る。みんなにこにこしていた。「マオ、祇畏士さまのことしっかり捕まえとくんだぞ!」
「負けないでね!」
ティーくんとスーロくんの声が聴きとれた。大声で云わないでよ、と思ったけれど、なんだか嬉しい。
馬車が角を曲がり、みんなの姿が見えなくなった。俺は四月の雨亭から切り離されたのだ。
結局サフェくんと位置をかわった。セロベルさんの隣だ。セロベルさんは俺達を心配してくれているみたいで、先生ばりに訓示をくれる。
「収納空間があれば、名簿は常に持っておいたほうがいい。安全だからな」
「名簿って、なんですか?」
サフェくんが不安げだ。セロベルさんは肩をすくめる。
「学生と、教職員の名簿。成る丈覚えろ」
「え、学生って、三百人くらい居るでしょ。それに先生達も加えて、全部?」
ランスさんがうんざりしたように云い、セロベルさんは頷いた。ランスさんは呻く。「嘘でしょ」
成程、こういうのも、奉公人の仕事が大変だと云われる由縁か。まあ、なんとか……気合いでどうにかする。
「あとは……とにかく我慢しろ。なんでも。奉公人同士で助け合うようにってのは、もう云われただろう? それを忘れないように」
皆、こっくり頷いた。やっぱり大変な仕事なんだなあ。
荷物は、先に運搬されるそう。簡単な検査があって、すでに割り振られている部屋に運びこまれるのだ。
奉公人は、初めて御山にのぼった時に、家政職の先生(いつだって奉公人をとりまとめる立場にあるのは家政職の先生だそうだ)から名簿を渡され、簡単に構内について説明をうけ、それぞれの持ち場に割り振られる。
「といっても、専任になるのは厨房担当くらいで、後は場所で区切られる。帝国寮だとか、一般寮だとか、な。その場所のなかで、掃除、洗濯、片付け、食事の配膳、そういった諸々をこなす訳だ。勿論、手の足りないところがあったら、割り当てられた分の仕事が片付き次第そっちにまわされる」
ふむ。それって、仕事、終わらないのでは。
セロベルさんからお休みの話は一切出てこない。多分、ないのだろう。一時下山もできない感じだったから、当然休みがない、という訳。
結構な労働環境であるが、奉公人からのし上がって教授や研究者になったひとも居るみたいだし、本を読む時間くらいあると信じておこう。




