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収納空間を開き、羊皮紙をとりだした。鉛筆(の芯)で文章を書きつけ、簡単にたたんで、白いリボンをかける。しっかりと結んだ。「リエナさん、これ」
「なあに?」
「後でセロベルさんに」
俺がさしだしたものを、リエナさんは不思議そうに首を傾げながらうけとった。白いリボンをかけてあるのだから、勝手にあけることはないだろう。
「お前ら、馬車にのれー」
セロベルさんが暢気な声で指示を出した。俺は一瞬そちらを見てから、リエナさんへ笑みかける。荷物用の馬車だけ先に出ていき、かたことと車輪の音がとおざかる。「リエナさん、色々ありがとう。オムレツ、また食べさせてくださいね」
リエナさんはなにか云いたげにしたけれど、俺は馬車へと走っていった。自分で思っている以上に別れが淋しく、涙が出そうだったから。
うけとらない、ということはないと思う。もともと騎商さんのものだった土地を、完全に譲る、という手紙だ。あの程度でも、法的拘束力はある。
馬車には一番のり、と思ったのに、メイリィさんがすみっこに座って、爪を磨いていた。爪磨き用の磨き布で、一枚々々丁寧に。
「隣、失礼します」
メイリィさんの隣に腰をおろした。今回は、セロベルさん含め七人でのるので、扉のついた立派なものではなく、後ろから出入りする、座席のない幌馬車だ。床にはじゅうたんが敷かれていて、魔法の灯がふたつ、ふわふわしている。くらくはない。これに扉がついていたら、ダストくんとこの馬車に似てる。
サフェくんが走り込んできた。髪を結い直していて、頭の低い位置でふたつお団子になっている。可愛い。
サフェくんは俺の隣にあぐらをかく。大振りなサファイアのピアスが、ゆらゆらした。ちらっと見ると、メイリィさんは相変わらずピアスをつけていない。ただ、彫金の腕環をふたつつけていた。
ちょっと危機感を抱き、俺は収納していた指環やネックレスをとりだして、身に着けた。やっぱり慣れない。でも、これをしておかないと、危ないのだ。髪を伸ばすのは根性がないので無理そうだし、アクセサリでいくしかない。
女性陣が談笑しながら馬車にのりこんだ。俺達の向かいに座る。ワウラさんがメイリィさんに話しかける。
「メイリィ、なにしてるの? あら、爪磨いてるのね。あんたの手って傍観者みたいに綺麗だわ」
メイリィさんはかすかに頷いた。ワウラさんとディロさんがくすくす笑う。雰囲気はいい。
セロベルさんがのりこみ、馬車が動き出した。




