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ぽつぽつ、お昼ご飯を食べにお客さんがやってくる頃、俺達は傭兵協会が用意してくれた馬車に、荷物をいれていた。俺は収納空間に全部放りこんでいるので、五人の手伝いだ。収納空間にいれて、五人の荷物を馬車まで運ぶ訳。
粗方のものを積みこみ、セロベルさんと御者が話しているのを見るでもなく見ていると、リエナさんとソルちゃんがやってきた。なにかと思えば、俺の収納空間にはいっている食糧のことだ。経費で買ったものが沢山ある。
すっかり忘れていたので、置いてくる為に厨房へ行こうとすると、リエナさんに腕を掴まれてひきもどされた。「待って、マオ」
「はい?」
「あのね、どうせ置く場所もないし、悪くなっちゃうだろうし、それはマオにあげることにしたの」
「えっ」
口を半開きにする。リエナさんはにっこり笑った。「ちゃんとソルとコーラの許可もおりたわ。四月の雨亭からのはなむけ、ってことで、どう? きらびやかなものじゃなくて申し訳ないけれど、マオには食べものが一番かしらって思ったの」
俺は暫し、絶句していた。感激でだ。これだけ食糧があれば、もし御山でのご飯が口に合わなくても、こっそり厨房に忍び込むなりして調理ができる。それは俺にとって、命綱が確保できたに等しい。
俺はリエナさんの手を両手で握り、ぶんぶんと上下させた。
「ありがとうございます。本当に」
「やだ、大袈裟ね……」
「だって、安いものじゃないですよ。いや、それぞれは安くても、俺沢山持ってますから」
そうだ。お砂糖なんて見る度に買うから、天文学的数字になっている。
「いいのよ」
リエナさんは俺の手に、あいた手を重ね、軽く叩く。表情が柔らかい。「マオには迷惑をかけたし、沢山助けてもらったでしょ。わたしも、セロベルも、お義母さまも。グエン達みたいにいい給仕を雇えてるのも、ソルやコーラみたいなきちんとした経理を置いてるのも、リータが来てくれたのも、マオがきっかけじゃない。だったらお礼をしないといけないって思ったの。このまま、下山してこないかもしれないんだしね」
御山から簡単におりられない、というのを再確認した。
俺は頷いて、手を解く。リエナさんの云っていることは半分くらい正しい。慥かに俺はむちゃくちゃなことをして、四月の雨亭の借金をちゃらにしたり、グエンくん達を雇うきっかけをつくったりはした。
でも、俺だってひとりでなにもかもやったのじゃない。みんなに助けてもらった。助けてくれたひとのなかには、リエナさんだってはいってる。




