2066
四月の雨亭には、ティーくんとリェンくんが来てくれていた。どちらも、餞別だと、せっけんやナッツなんかを沢山もって。
それと、リーニくんからのお祝いだという、ドライフルーツも。
お昼には御山へ着いていないといけないので、お昼ご飯はここで食べられない。俺はふたりをお茶に誘い、グエンくんを交えて四人でテーブルを囲んだ。
ランスさん達五人は、荷作りや、それぞれやりたいことがあると、離脱した。家政職のふたりは、グロッシェさんに訊きたいことがあるそう。ランスさんとワウラさんは、セロベルさんバルドさんヨーくんと、簡単な打ち合い。サフェくんは、収納空間の整理整頓。そうそう、俺も思い出して、イルクさんから託されていたものをセロベルさんに預けておいた。荒れ地文字の研究家さんがほしがっているっていう、クレヨンみたいなやつ。
「なんか変な感じ」
リェンくんが含羞んで笑っている。「大声で笑いたい気分」
「俺もだよ。マオ、よかったな。それと、ありがとうな、俺の店のこと、娼妓達のこと」
向かいの席のティーくんが手を伸べて、俺の手を掴む。俺は頷いて、にこっとした。
「ティーくんもリーニくんも、命の恩人だからね」
「……そうかよ。じゃあ、リーニのことは心配すんな」
「うん……」
リーニくんは、ひと言だけど、ドライフルーツに手紙を添えてくれていた。おめでとう、と。
ティーくんは、リーニくんと直に会えなかったそうだ。険しい顔のラールさんと二・三、言葉を交わした。それだけ。秋の娘亭は営業しているけれど、リーニくんはお家から出てこない。ラールさんは傭兵協会に顔を出さないし、警邏隊のお仕事も休んでる。
御山にはいる俺にできることは、現状、なにもない。だから、ティーくんや、セロベルさんとか、信頼できるひとに託すしかないのだ。
ティーくんと目を合わす。「お願い」
「ああ。心配要らない。南五番の今の顔役に言付ける。山道掃除の時に、お前に伝えてもらうからさ。リーニが元気にばかやってるって」
「俺も、協力するから」リェンくんが、ティーくんの手ごと、俺の手を両手で包む。「任せて」
「僕もね」
グエンくんがリェンくんの手の上に手を置いた。俺達はすばやく目を交わし、にっと笑って手を解く。まるでなにかの秘密結社みたいだ。このひと達は、信頼できる。
すっきりしたお茶と、くるみのパイ。どちらもなくなるまでに、三人からは充分注意された。「いいか、すきをみせるなよ」
「学生さん達って結構……な、リェン」
「うん」
「あいつら無駄に元気なんだからさ」
「マオ、せめて指環はつけてね」
「どうせだから、耳に穴開けてく?」
俺はうんうんと頷いていたが、ピアスホールだけは拒否した。こわいもん。




