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サローちゃんはこちらを向く。
「あなたは、この工房に、とてもいい薬材を沢山持ってきてくれた。おかげで、沢山、面白い調剤ができたし……弟子達も、上達した。それと、じーちゃんのこと、ほんとにありがとう。猫の爪、助かった」
「あ……いいよ、あれは、お代もらったんだし」
「ううん。それだけじゃなくて、じーちゃんを説得してくれたから。後は、あの薬のことも、ありがとう」
サローちゃんは、にこっとする。「御山に飽きたら、降りてきて。あそこは退屈なところだから。そうしたら、今度は四月の雨亭じゃなくて、うちが雇う」
魔力薬を買い、契約も結んだ五人と、セロベルさんが、前庭で待っていてくれた。俺はもう一度ヴェンゼくんにぎゅーっとハグされ、手を振って見送られる。「マオ、元気でね」
「うん。またね!」
手を振り返した。
しかし、サローちゃん、凄いなあ。御山を「退屈なところ」と云うひとは、初めて見た。サローちゃんからしたら、好きに調剤できるあの工房が、一番楽しいところなんだろうな。
五人はなんだか嬉しそうだった。訊いてみると、俺の同期と云うことで、ちょっと値引きしてもらえたらしい。
「試験の為に粘ってたから、お財布がからっぽに近いのよね。弓もいいやつ売っちゃったし」
ワウラさんはちょっと切なげに溜め息を吐く。「ぎりぎりで通った感じ。ほんとに助かった」
ディロさんがくすくす笑う。昨日と同じ服だな、とその時気付いた。
「わたしも同じようなものだよ。最低限のものだけ買って、最小限食べて、レントのなかで日雇い仕事をして……でないと、ほら、試験に間に合わないかもしれないもの。ランスちゃん達は?」
ディロさんは楽しそうにくるっと後ろを向く。まずランスさんが答えた。
「わたしは傭兵してました。たいして傭兵等級は上がらなかったけど」
「あ、僕は、家庭教師って云うか、子守りを」
「ああ、サフェは子どもに好かれそうだものね。メイリィは?」
にっこりしたワウラさんが、メイリィさんにも訊いた。メイリィさんは淡々としている。「国許で娼妓を」
「へ?」
ワウラさんが声をひっくり返す。俺とディロさんは目をぱちぱちさせた。ランスさんとサフェくんは、口を半開きにする。セロベルさんは平然。
メイリィさんは軽く首を傾げた。
「癒しの力があるのに、恢復魔法が、なくて。魔法屋で、買う為に、多くの、金が必要だったから。この二年は、家政婦」
「あ……あんた、根性あるのねえ。かっこいいよ」
ワウラさんが心底感心した調子で云い、メイリィさんは軽く肩をすくめた。




