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メイリィさんの喋りかたは、時々ぎこちない。出そうになった言葉をひっこめて、別の言葉を当てはめている感じ。
でも、言葉の意味は通った。理屈も解る。俺も気になっていることだ。「それは俺も考えてました」
「どういうものを?」
肩をすくめた。
「御山を上り下りして、荷物の運搬」
成程、とでもいうように、メイリィさんは深く頷く。
隣に並んだ。メイリィさんからはいい匂いがする。フリージアみたいな、爽やかな香りだ。
「メイリィさんは?」
反応はない。俺は付け加える。
「どういうものを予測してるの」
「ねやごと」
息を吸いこんだ拍子にそんなことを云われたので、思いきりむせた。俺は咳込み、胸を叩く。メイリィさんは俺のせなかに手を添え、とんとんと撫でながら、恢復魔法をかけてくれた。
呼吸が楽になったので、姿勢をただす。あー、死ぬかと思った。メイリィさん、言葉少なだからこそ、インパクトがすげえ。
「め」喘ぐ。「メイリィさん。す、すごいこと、いうね」
小首を傾げられた。ええー。
「あの……そういうことはないんじゃないかな」
「どうして」
「もしそうなら、セロベルさん……えっと、ここの亭主なんだけど、そのひとがもともと御山で補助教官やってたひと。で、俺の推薦状もつくってくれたんだけど」
メイリィさんは顔の傾きを戻し、こっくり頷く。なんとなくテンポがずれてるなあ。面白い。「もしその、そういうのも業務にはいるのなら、教えてくれると思うんだよね」
それにはあまり納得いかなかったか、再び首を傾げてしまった。俺は半笑いでかたまっている。
メイリィさんは、ひょいと空を仰ぐ。俺もつられてそちらを見た。
「あ、もしかして、俺がうかったからそう思ったの?」
唐突に思い付いたので、訊いてみる。不合格になった女のひとがそんなふうに罵ってきたし。
はっとした。
今の今まで忘れていたが、結局あのひと幕は、なんだったんだろう。贋作家とか、ひょう……なんとか者とか。あと、天の実見者。実見者って色々ある訳?
「違う」
メイリィさんの、数拍遅れた返答がある。頭がこんがらがりそうだ。どんな質問をしたっけ、と思い出している間に、メイリィさんはそこそこ喋った。
「奉公を、していたひとは、思い出したくないと……それくらいつらい、仕事なのだろうと、思った。だから」
「あ……そう」
成程な。論理立てている。御山で働いていたという名誉がある筈なのに、思い出したくないと云わせるなにか、だもの。なにかとてもつらいことだろうと考えるのは解る。




