2055
そして、適職への侮蔑だ。自分で選べるものじゃないのに(選べるならみんな、格闘姫だの神弓だの、有用で名前もいいものを選ぶだろう)、娼妓が適職にある、それだけでもう罪なのだから、吐き気がする。
ロイネちゃんは灯を強くした。俺の表情を見たかったのかもしれない。俺を目をあわせて、なんだか満足そうに小さく頷いたから。
「マオさんはいいひとですね」
「……はい?」
「こういうひとの居るところだと思ってませんでした。わたしは弟と離れないですむように工作しようとしただけ。ジーナが泊まっていた四月の雨亭に、なにか瑕疵があれば、ジーナとここの従業員の誰かが親しくしていたとか、そんな話が少しでもあれば。幾ら、たまにしか宴に呼ばれないスニッペン家でも、ジーナの悪評を流すくらいはできます。だって彼女は嫌われているもの。完璧に美しくて、強くて、賢くて、汚い真似をしてファバーシウスの嫡男の心を捕らえてはなさない、クソみたいな女だから」
ロイネちゃんはまた、暫く黙る。云いたいことを整理しているのだと思う。俺はなにも云わない。この子は、不満でもなんでも、吐き出すべきだ。
「でもなにもありませんでした。ジーナは慥かにここに居て、家政の勉強をしていた。隣のテーブルのひとや、話しかけてくるひとに聴きました。金の目をきらめかせて、くらい色の髪をした、傍観者のように美しい子がここに居たのではありませんか、と。大概のひとが、ジーナちゃんのことか、と云いました。とても感じのいい子で、ディファーズのお嬢さまだなんて云われないと解らなかった。お昼に庭で、金髪の男の子と並んでお祈りしていたのを見た、というひとも居ました。古い絵画のように綺麗で、静謐としていたと。相手はファバーシウスの嫡男でしょう。ふたりの結びつきは強くて、どんなことをしても壊れないと、よく解りました。汚い真似をするクソ女はわたしだったってことです」
ロイネちゃんは数回、深呼吸する。
「だから、ごめんなさい。わたしはジーナをおとしいれようとして、ここに来ていました。食事代が安いからだのなんだのは嘘です。ただ、パンのおかわりはとても助かりました。弟は最近、まともなものを食べさせてもらえていないので、色んなものを持って帰って食べさせていたんです。特にこちらの、とうきびのパンが好きで、おかげであの子は元気にしています」
「あ……」
そっか、この子が食べてたんじゃなかったんだ。毎回、おかわりのパンも全部なくなるから、育ち盛りなんだなあなんて暢気に考えていた。




