2046
グエンくんとアランさんが、食糧を持って離脱した。従業員棟で横になっているクーアくんに届ける為だ。
クーアくんは一番、ショックが大きくて、心身ともに疲れ切っている。当然だ。
グラーディアール卿の愛人のようなことをしていたのは、クーアくんの意思ではない。スルくんは知らないし、クーアくんが絶対に伝えないでくださいと泣いて頼んだそうだが、お前が従わなかったらスルがどうなるか解らないぞ、と脅されて、仕方なく、だったのだ。自分の子どもを脅しの材料にするなんて、ろくでもない親が居たものである。
クーアくんは、とりあえずふつか間、食事やトイレ以外は寝かせておく。そうしろと、セロベルさんが医師に厳命されているのだ。医師の判断は間違いがないみたいで、だから、体に負担が少ない瞑瞑で眠っている。
眠り薬よりも負担が少なくて、効果もうすい。でも、もっと効果がうすくて代わりに体への悪影響がほとんどないお香よりは、よく効く。とにかく、魔法をつかってでも寝ていたほうがいい、という情況なのだ。
おやつを食べに来たお客さん達が、俺達が大宴会(勿論お酒はなしだ)をしているのを見て、ぎょっとした。常連さん達だ。
俺が奉公の試験にうかったと聴いて、皆さん口々にお祝いを云ってくれる。俺は御山で下働きをしたいと、たまに話していたから、覚えてくれていたみたい。自分のことのように喜んで、よかったなと握手されたり、頭を乱暴に撫でられたりするのが、くすぐったいけれど嬉しい。
今夜はお客さんにも椀飯振る舞いだ。貝貨を10枚、ソルちゃんに渡し、これで今夜は貸し切りで、と頼んでみると、ソルちゃんはにっこりして、4枚も返してくれた。6枚あれば充分、だそう。腕のいい経理さんである。
お客さん達が沢山這入ってきて、もと・娼妓達が給仕に走りまわる。俺はのんびり、ぎゅうぎゅう焼きとお握りを食べる。ぎゅうぎゅう焼きの火加減をしたのは、タグさんらしい。あの子随分上達したわ、とリエナさんが誉めていたが、慥かに誉められる味だ。とりが丁度いい焼き加減で、しっとりジューシーだった。
タグさんは、屋台で料理人していた期間が長い。だから、オーブン料理は苦手だった。でも、ここまで上達したのなら、安心して後を任せられる。俺がぬけても四月の雨亭は巧くまわるだろう。農家さんとも契約しているから、荷運び役が不可欠って訳でもないし……。
ああ、ここを去るのだな、と思った。




