2045
リエナさんは走るようにして厨房へ戻り、セロベルさんとハーヴィくん、サッディレくん達が、カットされていないタルトタタン、チーズケーキ、フルーツタルト、ミンスパイ、それにシュークリームやパリブレスト、更にクッキーやビスケットなんかを、山程運んできた。テーブルの上は食べものでいっぱいだ。しあわせ。
「あの」
俺は云う。なんだか、巧く声が出ないけれど、喋る。
「ほんとに、ありがとう、みんな。今まで、助けてくれたし、こんな、お祝いしてくれて」
「みずくせえっす!」
サッディレくんが俺の頭をがしがしと撫でた。アーレンセさんが発作的な笑い声を立てる。その目尻に、涙がきらきらしていた。アーレンセさんも、泣いてくれたんだ。
「そんなのいいですから、食べてくださいよ、マオさん」
「うん……戴きます。みんなも、食べて」
俺は手を合わせて、なんだかよく解らないものに祈り、それから食事をはじめた。
ぎゅうぎゅう焼きは最高においしいし、キャベツのクリーム煮も文句のつけようがない。お握りの具は、大根の梅酢漬けや、生姜の甘露煮、牛肉の佃煮、お塩のきいた炒りたまご、ミートボール、などなど。どれもおいしい。ジェノヴェーゼはちょっと苦手なので、ふた口で辞めた。当然だが、セロベルさんが丁寧に淹れてくれたお茶は、口当たりがやわらかくていい香りで、とてもおいしい。やっぱりこれって、もとの世界のお茶とは違う味だな。
焼き菓子類も、とてもよくできている。四月の雨亭は、下手したらお菓子部門でも観光案内で一位になるのじゃなかろうか。リーニくんのとこの菓匠さんが風邪でもひけば、充分可能性はある。
夢中で食べものを口へ詰め込んで、おなかが少し落ち着くと、思い出した。「サキくん達は?」
まだ、お外なのかな、と思ったけれど、違う。俺の隣にちゃっかり座って、ぶどうのシャーベットを堪能しているバルドさんが、にっこりした。
「サキ達は、呼び出されて、傭兵協会へ。その後、御山からも呼び出されたみたいで、戻ってしまったよ」
「あ……そっか」
あの子達は、入山者で、御山に所属しているのだ。呼び出されたら戻るしかない。傭兵協会での聴取が終わって、御山でも話を聴かれる、ということだろう。
ちょっとため息が出た。サキくん達にも伝えたかったのに。
「残念だなあ」
「なに云ってんだよ」
アランさんがくすくす笑った。隣近所にもその笑いが伝播する。
「どうして笑うの」
「お前、明日には御山に居るんだぞ。その時会えばいいだろ」
あ、そっか。
へへっと笑ってごまかした。みんな、楽しそうに、嬉しそうに、くすくす笑う。




