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呼吸が楽になってきた。バルドさんは優しい声で喋っている。
「セロベルときたら、わたしが伝糸で伝えているのに、自分がひとっ走り説明しておく、なんて。君がうかったのが嬉しくて、走りまわりたいらしい」
ちょっと笑ってしまった。バルドさんのくちぶりも面白かったし、セロベルさんがそわそわしているとしたら、なんだか可愛い。
馬車が停まった。バルドさんの手がおろされ、俺は体をまっすぐにして、ぐいと伸びをする。少し眠っただけだけれど、だいぶ気分がいい。今夜は沢山食べて、ゆっくりお風呂につかって、それからぐっすり眠ろう。明日に備えないといけない。
四月の雨亭はお祝いムードだった。
「マオ!」
「よかったな!」
まず、門を潜ってすぐ向こうで、グエンくんとティーズくんに捕獲された。まわりにはアランさんやウイザリオさんシャノさん、レンウィくんスレイくんが居て、くすくす笑いとおめでとうという言葉が耳を擽る。
グエンくんはすすり泣いていて、ティーズくんは亢奮気味にまくしたてた。「どんな感じだった? 試験厳しかったんだろ? いやお前がうかるんだから、料理させられたか?」
「マオさん!」
「師匠!」
今度はソルちゃんと、リータちゃんだ。食堂から飛び出し、駈けてくる。「おめでとうございます!」
「おいしいものつくってますよ!」
ああ、慥かに、いい香りがする。とりがメインのぎゅうぎゅう焼きかな。とりが焼けて油が滴っている、そう思い起こさせる香り。それに、バジルと松の実とにんにくの匂いがする。あと、ぶどうの香り。キャベツの香り。ご飯の匂いも感じるな。
次に飛び出してきたツァリアスさんは、無言で俺に抱き付き、両頬にキスしてくれた。俺もキスを返す。「なにがあっても俺は味方ですよ」
ツァリアスさんのその言葉は、とても頼もしかった。
食堂へひきずりこまれる。スーロくん達にだ。
椅子に座らされ、お料理がどんどん運ばれてくる。そういう習慣でもあるのか、みんな俺と同じように、次々と席に着いていった。「マオの好物よ」
リエナさんが持ってきたのは、お握りの積み上がった大皿だ!
ツァリアスさんが握ったのかな? お米はつやつや、形は完璧、美しいおにぎり達だ。眺めていると、おなかがぐうとなる。
「マオ」リエナさんが椅子の背凭れに手をついて、ちょっと屈んだ。左頬に軽くキスされる。「御山では楽しくて嬉しいことばかり起こるわ、きっと」
そうだったら嬉しい。




