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「マオに叱られるから、云っとく」セロベルさんは笑いを怺えている。「うちはひと晩銀貨14枚、晩飯と朝飯つきで、トゥアフェーノでもラシェジルでも預かることのできる、厩がある。風呂もはいれるぜ。割高だけどもっといい部屋もある。飯は観光案内にのるくらいの味だ、といえば、どんなもんかは想像つくだろう。俺の淹れるただのお茶もなかなかうまいって評判だが、良心に従って、お茶とパンはおかわり自由だ。勿論泊まり客じゃなくても、銀貨1枚あればたらふくくえる。ちなみに今夜はぶどうのシャーベットが出るぜ。よかったら、御山へ行く前の最後の晩、レントで一番うまい飯をくうってのはどうだ?」
セロベルさんは鎧を脱いでいたし、体温は高めで、あったかくて気持ちよかった。だからだと思う。俺はうとうとしていて、その間に馬車にのせられた。
自分では意識していなかった。多分、疲れてる。色々あって。気疲れ、した。そういうこと。セロベルさんの云う通り、お昼くらいまで寝こけていればよかった。
はっと目を覚ますと、バルドさんに寄りかかっていた。「はい、マオ、もう少し休んで」
くいと肩を抱かれ、とんとんと軽く、リズミカルに叩かれる。
馬車はかたこと揺れていた。速度はかなり遅い。俺は呼吸を整える。息をふーっと長く吐いて、バルドさんの肩へ頭を凭せかける。
「合格おめでとう」
「……あ」
「一番乗りかな、わたしが?」
声が笑っている。俺は疲れた頭で考え、思い出す。
「……試験官が一番に云いました」
「君は律儀だ」
感心されたらしい。
馬車は、四月の雨亭へ向かっているそう。ランスさんとサフェくんは、それぞれ泊まっている宿へ戻っていった。セロベルさんは先に走って帰った。ヨーくんは御者台で、多分嬉しくて泣いている。
「嬉しくて?」
「マオの念願がかなったんだ。わたし達みんな、嬉しさではちきれそうなんだよ」
そう……なんだ。
バルドさんは本当に、嬉しそうだ。俺はバルドさんが嬉しそうにしていることに、あまり疑問を持っていないと気付いた。喜んでくれて嬉しいが、それが当たり前のように感じている。血縁もないひとの、奉公の試験の結果について、喜ぶ義理は彼にはない。
だのに、バルドさんが嬉しさではち切れそうだと云っても、違和感はないし不思議とも思わない。思えない。バルドさんなら……いや、警邏隊なら、そういう反応をしてくれるのは当然だ。四月の雨亭のみんなも、ミューくん達も。
俺はこのひと達を、家族みたいに思ってるんだな。
感想ありがとうございます。はげみになります。




