2042
今日はひとに負ぶってもらう日だ。
俺はセロベルさんのせなかに負ぶわれ、ゆっくりと二の門へ向かっていた。ここは、ヤーヌさんが云っていた、「空き間」というところだろうか、と漸く思い至る。先生らしい青いローブのひと達がちらほら居る。それから、俺と同じく受験に来たであろうひと達が、間隔をとって集まり、待機している。彼らを飛び越えて、俺は試験をうけた訳だ。そして、うかった。
口のなかが酸っぱい感じがする。
それから、警邏隊や私兵が目についた。どちらもつったっているか、二・三人でかたまってうろうろしている。まさしく警邏である。あんまり緊張した雰囲気ではないのは、なにかあっても御山の先生達なら心配ないからだろう。下手したら警邏隊や私兵がまもってもらうのじゃなかろうか。
ランスさんとサフェくんが、心配そうに左右を歩いている。なにかしたいけれど、セロベルさんのせなかに居るから手を出せない、という表情だ。「マオ、気分悪かったらすぐに云いなよ」
「僕、先に行って、癒し手を」
「ああ、大丈夫だ。こいつ、昨日色々あって、疲れてたんだよ。昼まで、ゆっくり眠らせといてやればよかった」
うろちょろしていたのは俺の勝手だ。セロベルさんが気に病むことではない。
俺はぼんやり、進行方向を見ている。カンナさんと、シシース先生、それから杖をついたチハル先生は、試験会場へ戻っていった、筈だ。ちゃんと確認しなかったけれど。
ランスさんがかたい声を出す。「えっと。あなたが、マオを推薦したひと?」
「ああ」
「次席下山者ってこと?」
「いや、もと補助教官だ」
顔の向きをかえる。ランスさんは、何故かばつの悪そうな顔だ。
「あの……マオ、明日には御山なんだから、今夜はしっかり寝ませたげて。わたしが口出しすることじゃないけど」
一拍あって、セロベルさんが苦しそうに笑った。ランスさんはむっとする。「なに」
「あ? いや、だって。勘違いだよ。俺は下山して、実家の宿屋を継いだ。マオはうちで料理人してる。知らないか? 四月の雨亭」
「えっ」
サフェくんは驚いたようだ。声がひっくり返っている。
「四月の雨って、あの四月の雨?」
「うち以外に四月の雨亭って店は知らねえが、ほかにあるのか?」
「え、え、えと、レントの北にあって、ご飯がおいしくて、亭主が耳持ちの……あ」
セロベルさんがサフェくんのほうを向いて、こっくり頷く。耳がはたはたしていた。ランスさんは口をぽかんと開けている。




