2034
「ねえ、あのひと達がなに話してるか、聴こえる?」
俺とサフェくんの背後に、ランスさんが立った。耳打ちしてくるのへ、俺もサフェくんも低声で返す。「なにも」
「全然聴こえませんよ」
「ちぇ、気になるなあ。……ねえマオ、あんた凄いんだね」
仰ぐ。「え?」
「収納空間。あんなに水をいれて、平然としてるんだもの。そういえば、洗濯の時も、収納空間から水出してたでしょ」
「うん……」
頷く。ランスさんはふー、と息を吐いて、微笑んだ。
「なんだろ。どうしてかな、気分がいい」
「え」目をしばたたく。「ランスさん、気分悪かったの」
ランスさんはくすっとした。
「そうじゃなくて。わたしずっと、入山できなかったのひきずってて、なにがなんでも御山にはいるんだって思って、この試験をうけたの」
あー……入山試験は、もう受験資格がないのか。年齢制限が相当厳しいからな。ライティエさんだってあんなに強いのに、二十歳までにそうなれなかったから、入山はかなわなかった。
御山の理念も、解らなくはない。御山は、いかなる差別もゆるさない場所だ。ただ単に、それが勉学や研究の妨げになる、っていう理由だとしても、それ自体悪いことではない。
例えば、不倒について研究することを目標にしているひとが居るとする。でもそのひとが、けもみみや、自分の出身国以外に対して偏見があって差別していたら?
研究の為に不倒を持っているひとを集めることすら、困難になるだろう。研究する以上は、サンプルは多いにこしたことはない。実験するにしても、観察するにしても、結果の信頼性が違う。
学生の場合も、切磋琢磨しあうのに、差別がはいりこんだらそれが難しくなる。同じ相手と延々議論したって同じところに帰結するだけだろうし、同じ相手とだけ打ち合ったって、精々そのひとの癖や戦いかたが解るくらいだ。だから偏見や差別なく、二年間を有効活用してほしい、ということだと思う。
でも、歳をとってから価値観をかえるのは、難しい。なかなかできることじゃない。環境が大きいから、仕方のない部分はある。
でも、まだ若いうちなら矯正できる。だから、若いひとだけを入山させる。そして厳しく禁止することによって、学生間の悪感情を成る丈抑える、のだろう。
それにしちゃあ、さっきのエリートさんは、髪の短い男に対して態度が悪かったですがね。面と向かって罵られたり、なにかされたって訳じゃないから、まだましだけど。まあ思想は個人の自由ですし、実害があった訳じゃないので、なんとも申しません。




