2032
エリートさんの息が荒くなってきた。
俺はただただ、立っているだけ。なんとなく、収納空間の口を見ていた。結構な量のお水が注ぎ込まれている。
「あの」
低声で訊いた。「このお水って、もらっていいんですか?」
「は?」
あ、反応した。
エリートさんは深呼吸して、俺を睨む。
「なんですか?」
「だから、このお水って、もらって帰っていいんですか?」
ちょっと強めに返してしまった。自分の仕事を終えている、別の青ローブのひとが、ぎょっとした顔でこちらを向いた。
エリートさんは顔を歪める。
「はあ?」
「だから、……あ、いいです、別のひとに訊きます。すみません煩くして」
その辺の決まりを知らないか、俺とまともに話す気がないかのどちらかだろう。別にかまわない。後でカンナさんに訊けばいい。
俺は頭を下げ、そっぽを向いた。なんか、感じ悪いひとだな。
その直後、残りのふたりも離脱した。俺はじっとしている。エリートさんの呼吸がどんどん荒くなる。怒ってるのかなあ。俺が質問したりしたから。
「アマラくん」
「大丈夫です」
試験監督が声をかけたが、エリートさんは即座にそう返した。ジアー先生とシシース先生が、心配そうにしている。チハル先生が冷たく云った。
「アマラ先生、もうやめたほうがいい。魔力が底をつきそうですよ」
「そんなことは」
「僕がかわります。マオさん、こちらへ」
促された。でも、エリートさんが魔法を辞めない。お水は勿体ないし、……なので、収納空間の口をひろげることにした。指でひろげながら、チハル先生のほうへと歩いていく。
チハル先生の前まで来た。なんだか吃驚されている。俺は云う。「お願いします」
「あ……はい」
チハル先生は手をくるくると動かして、呪文もなく、お水を出した。それを収納空間へいれていく。
エリートさんが倒れた。
え?
振り返ってその瞬間を見た俺は、かたまる。別の青ローブのひとが抱え上げ、運び出していった。なに?
魔力の枯渇……ってこと? あ、そっか。三人目な訳だから、魔力は減ってるよな。魔力薬でも服めばいいのに。
ほのかな悪感情を持っているので、可哀相に、とは、あまり思わなかった。御山だからすぐに治療だってうけられるだろうし、俺が心配する義理はない。
「ガロア先生、試してみても?」
「う……うむ。マオさん」
「はい」
試験監督を見た。「まだその……余裕は、ある?」
「はい」
「チハル先生が今までより沢山の水を注いでも、問題ないだろうか」
「大丈夫です」
チハル先生が手をくるくるまわした。




