2027
手でしぼっても、水気は全部なくならない。だから籐かごは、ずっしりと重たかった。
「ああ、セロベルくんの推薦した子だね」
俺が籐かごを抱きかかえるみたいにして持っていくと、試験監督がにこっと笑った。その隣、証人の先生の片方も、にっこりする。頭の右側で髪をきつくくくった後、みつあみにして、せなか側を通して左の肩にのせている、という髪型だ。色がぬけるように白く、目は淡い灰色で、ディファーズっぽい顔立ちである。「ファルマディエッシャもですよ、ガロア先生」
「ああ、君の同期だったかな、あのくいしんぼうは」
「ええ、隣の部屋でしたね。彼は何度か、わたしの髪を食べようとしました」
あ、やっぱりディファーズのひとだ。あたってた。なんか嬉しい。
俺は軽く頭を下げてから、籐かごを示した。
「洗い上がりました」
「うむ」試験監督が頷いた。「……乾かしてはいないね?」
「はい。家政魔法も、風魔法も、つかえません。これが精一杯です」
正直に云う。それに、隠す意味はない。採用されたら云わないといけないことだし、そもそもセロベルさん経由でカンナさんに伝わっていると思う。
試験監督はもう一度頷き、シシース先生になにか耳打ちした。シシース先生はくすくす笑う。カンナさんと、家政取締役のジアー先生がやってきて、籐かごを覗きこんだ。ジアー先生は何枚か、矯めつ眇めつしている。貧血だというダーニェア先生は、落ち着きがなくゆらゆらと体を揺さぶっていた。
チハル先生が云う。
「どの属性の魔法ならつかえますか?」
「どれもつかえません」
「どれも?」
「はい」
ジアー先生が、タオルを一枚とって、ぱたぱたとひろげた。「これだけ綺麗に洗うには、お湯が必要だと思います。それに、水は支給されなかった」
「収納空間に持っています」
「水を?」
「お水を」
六人は目を交わし、まずダーニェア先生が笑った。それから、ほかの五人もそれぞれくすくすと笑う。
「うむ、まあ、いいでしょう。洗い上がったものはそちらのつづらに移して、戻りなさい」
「はい」
もう一度お辞儀して、指示の通り、用意されているつづらに洗い上がったものを移した。籐かごは自前のなので、収納し、もとの場所へ戻る。ランスさんはゆすぎを終えて、風魔法で水気を飛ばしていた。
「巧くいきました?」
「あ。うん。ありがとう。あんたの云う通りにしたら、綺麗になったよ」
ランスさんはにこっとする。「結構楽しいね、これ」
「ですよね」
俺もにっこり笑った。お洗濯は、手とか足とかかさつくけど、ストレス解消になる。




