2025
「は?」
「え?」
隣の女性は口をぽかんと開けている。俺は小首を傾げた。
「洗濯って」女性はぎこちなく云う。「それが? 踏みつけてるじゃない」
「はあ。手でやるよりも、効率がいいので」
どうやら、お洗濯をしたことはないみたいだ。
洗濯板は収納空間に持っているから、本当は手でもいい。だけれど、量があるし、絹や毛織物みたいな繊細なものは選り分けている。あれは後から洗うつもりだ。今は、麻とか綿の、結構がしがしいって大丈夫なやつ。
女性はすっと立ち上がった。俺よりも背が高い。歳は、二十歳前後だろうか。カフェラテ色の肌で、濃い茶色に金のすじがはいった髪をポニーテールにしている。ごわっとしたチュニックと、くすんだ赤のスカートかドレス。さっきまで佩いていた剣は、丸めたローブの上に置いてあった。
「ねえ」
「はい」
「やりかた、教えて」
女性は低声で、そう頼んできた。俺は頷く。「いいですよ」
女性は何故だか、不満そうに口を尖らせた。それから、ぶっきらぼうに云う。
「ランティエーナ・ルカッツェ。ランスでいい」
「マオです。あ、最後に呼ばれたし、知ってますよね」
笑顔で返すと、もう一段階渋い顔をされる。何故。
お洗濯は楽しい。汚れが落ちるのは、すっきりする。
俺はせっけん液のなかから服をひきあげ、ぎゅっと絞って、収納空間から出したたらいに置く。それをくりかえす。
「じゃあ、たらいにお湯をはってください。三秒くらいで手をひっこめるような温度で」
ランスさんは、ぶつぶつと呪文を呟き、たらいのお水をあたためる。俺は服をひきあげ終え、絹ものをいれる。うすでのローブが一枚だ。じゃばじゃばと、冷めたせっけん液のなかで揺する。「お湯、用意したよ」
「じゃあ、そこにせっけんを溶かして。まわすとはやいですよ」
ランスさんの手許にあるせっけんは、塩析していないものだ。簡単に溶けるだろう。
ランスさんはたらいにせっけんをいれ、水魔法なのか、手をつかわずにぐるぐるとまわしはじめた。流石。
絹のローブをひきあげ、しぼらずに別のたらいへ移す。毛織ものを浸し、軽くおさえた。こちらも、ローブ一枚。問題はない。
水気を軽く切って別のたらいへ移し、汚れたせっけん液は収納した。この情況で、その辺にぶちまける訳にはいかない。収納空間からお水を出してあしをすすぎ、そのお水も収納する。収納空間のなかでは、収納されたもの同士がぶつかったりはしない。便利だ。
「溶けた」
ランスさんが子どもっぽい口調で云った。




