2024
なのにその男は、真剣な顔で、泡だらけのたらいにはいって足踏みしていた。家政魔法ではない。人力で、なんとか結果を出そうと、汗をかきながら作業している。
「あの」
思わず声が出て、ランスは自分で驚いた。わたしはなにを云おうとしてる?
男がこちらを見た。まだ十七・八だろうか。「はい、なんでしょう」
ランスはもう一度、驚く。今度は、男の丁寧な口調にだ。自分達は、奉公人の少ない席を争っているのだ。受験者同士は常に、どちらが上かをさぐりあい、自分が強い、優れている、と、誇示している。そうやって相手を威圧する。
それが当然なのに、男はやわらかく、丁寧な言葉で、ランスに微笑みさえした! これはまったく、筋が通らない。
しかし、礼を尽くしてくれたのなら、ランスだって乱暴な態度はとれない。精一杯、穏当な言葉をさがした。
「……あんた、家政婦かなんか?」
何故か、それを訊いてみたかったのだ。家政婦や主婦はありふれているから、能力値が低いと娼妓をせざるを得ない。誉められた稼業ではないが、疎蕩者が認めているし、それしかないなら仕方がないというのはランスにも解る。
だが、この男は家政職ではない。家政魔法をつかっていないからだ。ランスは故郷に帰れず、宿暮らしで、家政婦達が仕事をしているのを見たことがある。
男はくすっと笑った。
「いえ。家政婦ならよかったんですけどね」
ランスは開いた口が塞がらなかった。こいつ、頭がおかしいのかな? 家政婦なんて、家政職のなかでも下でしょ。
ランスは口をぱくぱくさせ、漸くと声を出す。
「じゃあ……娼妓とか?」
職業について訊くのは、礼儀に反している。それは解っている。だが、家政婦がいいと云うのだから、それよりも下だと云うことだ。それを慥かめたかった。どうしてだか。
「そんなものですよ」
男は簡単に認めた。ランスはまた、啞然とする。娼妓であっても普通、このような場では否定するだろう。今は奉公の試験をしている。能力証の提出は義務ではないから、不名誉職は隠し通すことだってできるのに。
男はランスに興味がないのか、ひたすら足踏みしている。その足踏みの意味も解らない。やっぱり、どっかおかしいのだろうか。そう思った。
だが、ランスはそいつに興味がわいていた。変なやつだが、面白い。にこにこと楽しそうなのも感じがよかった。
だから尋ねた。それがランスの命運を分けた。
「それ、なにやってんの、お嬢ちゃん」
「お洗濯ですよ」
「は?」
「え?」




