2021
「入山者というのは」
試験監督は滔々と語る。「まだ幼い。炊事ができない、洗濯ができない、掃除ができない。そう云った子は多い。それにできたとしても、学生達はやることが多く、手がまわらない。だから御山では、家事全般を多くの奉公人がうけもつことによって、学生の負担を減らしている。勿論、わたし達も大いに助かっている」
カンナさんの隣の試験官が軽く手をあげた。
「ガロア先生、わたし達家政職の人間も手をかしていますよ」
「ああ、そうでした、ジアー先生。勿論、家政職の先生がた、家政職の学生は、授業の一環として雑事をこなしてくれています。ありがたいですよ」
ジアー先生はこっくり頷く。
「先に云っておきますが、家政取締役のジアー・シラース先生は、奉公人をまとめる立場のかたです。君達が奉公人になれば、彼の許で働くことになるので、覚えておくように」
受験者達が一斉に宜しくお願いしますと云う。俺はワンテンポ遅れた。ジアー・シラース先生は、年齢のよく解らない、黒に近い紫のまっすぐな髪を、ひきずるくらいに長く伸ばした、シアイル系っぽい男性だ。
試験監督が咳払いする。
「今回、御山が必要としている奉公人は、家事の手際のよい者だ。なので、これから、洗濯をしてもらう」
溜め息が複数聴こえてきた。俺は内心、大喜びである。そりゃ、家政職のひとに比べたら劣るだろうが、洗濯をすることはできる。それにどうやら、料理とかそっち方面も審査基準に関わりありそうだし、これは運がいいぞ。
わくわくしていたのだが、俺は重大なことを忘れていた。「勿論、特殊能力や魔法の使用はゆるされている。思う存分力をふるってください」
大きなたらいと、洗濯ものの詰まった籐かごが、大勢のひと達の手で運びこまれた。
このひと達が下働きなのかな? 全員、黒っぽい、裄も丈も足りていないローブを羽織って、俯きがちにたらいと籐かごを運びこんでくる。先生達のローブは、ひとによってはひきずる丈なのだが、奉公人っぽいひと達のローブは太腿丈だった。ちょっと長いはっぴという感じ。
受験者達は間隔を持って配置され、それぞれの前にたらいと籐かごが置かれた。チハル先生の傍に小さなテーブルが運ばれ、その上に羊皮紙とインクつぼ、ペンが置かれた。記録係はチハル先生のようだ。
カンナ先生が受験者達の間を縫い、なにか慥かめていた。不正がないかをあらためているのかもしれない。なにも不備はなかったみたいで、弾むあしどりでもとの位置へ戻っていった。
奉公人と覚しいひと達が出ていった。
俺はとりあえず、ローブを脱いで収納し、ずぼんの裾をまくりあげる。熱魔法も水魔法も持たない俺には不利だが、こうなったらやるしかない。帰還への手がかりがかかっているかもしれないのだ。
それに御山に這入りこめたら、誰はばかることなくほーじくんと会える。
「始めてください」
試験官の誰かが云い、俺はくつを脱いだ。




