2019
カンナさんも同じ気持ちみたいで、喚いた女性へ冷たーい眼差しを注いだ。
「あ? 今、御山に対する侮辱が聴こえたけど?」
かなり凄みのある声だった。女性がびくっとする。
「だっ」
「だってもなにもないの」カンナさんはぴしゃりと封じる。「あなたは御山を侮辱し、次席下山者を侮辱し、わたしの同期入山者でもと補助教官を侮辱した。ここにいらっしゃる先生がたも聴いておいでです。証人のシシース先生とダーニェア先生、慥かに聴こえましたよね」
試験監督の隣に立っている試験官と、その隣、失格者の名前を呼んだ試験官が、ひょいと左手をあげてこちらに掌を見せる。
「聴きました」
「信じがたい侮辱でしたね」
「セロベルくんに限ってありえない話だ」
「ファルマディエッシャくんならあるかもしれないが」
いやいやないです。なに云ってんだあのシニヨンの試験官。
「だ、そうです。試験資格を失った者は即刻立ち去りなさい」
多いほうの紙束を持っている試験官が、淡々と促した。失格したひとは納得できないのか、暴挙に出た。
それぞれ、近場の別の受験者に襲いかかったのだ。当然俺にも。
が、そこは御山である。隣の屈強なおにいさんが俺に掴みかかろうとした瞬間、証人の試験官の片方が目にもとまらぬはやさで間に割ってはいった。踊るみたいにやわらかい動作で蹴りを叩きこみ、昏倒させている。
その間にも、試験監督が失格者ふたりの首根っこを掴んで地面におさえつけ、チハル先生が片手を振って残りふたりを動けなくした。膝から下を凍らせて、地面に釘付けにしたのだ。
あっという間の出来事だった。俺は啞然。受験者達は、俺同様啞然としているのが半分くらい、残りはおお、と感嘆の声をもらしている。
試験監督が立ち上がった。両手に失格者を持ったままだ。慌てて走ってきた私兵に、ふたりを投げつける。「二の門の外へ叩き出せ。全員に顔を覚えさせるよう。それから、傭兵協会に、奉公の試験で暴れたかどで労役につかせるように伝えておきなさい」
「はい!」
私兵はふたりをひきずって出ていく。あしを凍らされたふたりは熱魔法でそれを溶かそうとしているが、なかなか巧くいかない。カンナさんがのんびり歩いてきた。「もー、ダーニェア先生、貧血なんですから大人しくしてください。ファバーシウスくんに叱られますよ」
「あ、そうだった。今の、内証ね、カンナ先生」
「だーめーです。はい、掴まってください」
カンナさんはそう云って、ちょっとだけ笑った。
誤字報告ありがとうございます。助かります。




