2016
「では、これから能力証を精査しよう。御山で働こうと考えるものであれば、実見者については知っているだろう」
えーと。ああ、アーデルさんだ。リッターくんのお兄さん。井で汲んだお水があれば、お水を汲んだひとの能力が見えるっていう能力だったよな、実見者。
そうか、一緒に井のお水も提出させるのかも。で、能力証と照らし合わせるんだ。それなら確実だもん。まあ、そもそも能力証を偽造するなんてできないけど。キャラコさんでもない限り。
これも、セレモニーというか、確認しなくたって当然きちんとしたものだけれど、一応確認する、ってことだろう。能力証は、証人の署名いりのものなのだ。証人が嘘を吐くことはない。良心の呵責に耐えられなくなって死んでしまうのだもの。だから当然、能力証は正しいものなのだ。
試験監督が能力証を読みあげ、実見者が能力を見てそれを云う、とかかなあ。検証方法。ちょっとはずかしいかもしれない。魔力が低いとか、体力が低いとか、そういうのばれたくないひとって居るみたいだし。能力値が低くても、不名誉職でも、奉公の試験はうけられる。先着順ってだけ。
隣の屈強なおにいさんが、体を強張らせた。ちらっと見ると、頬をつーっと汗が流れていく。緊張しているのだろう。やっぱり、能力証の内容を読み上げるのかな。不名誉職だと、それを知られるのがいや、かも。さっき点呼があったから、顔と名前が解っているのだし、能力証の名前を読み上げたら誰のことかまる解りだ。
試験監督が能力証を読み上げると思いきや、隣の男性にさしだした。ひとりだけ、椅子に座っている試験官だ。「チハル先生」
「はい。慥かめます」
チハル先生、と呼ばれた試験官は、能力証の束をうけとった。銀縁で、赤い宝石がきらきらしている片眼鏡をとりだして、左目につける。受験者達がざわついた。ふたり、とかなんとか、聴こえてくる。
チハル先生は、お水を用意することも、洗面器やたらいを持ってこさせることもない。ただ、両手で持った能力証を紙芝居みたいにめくって目を通し、たまに膝の上に落とす。一巡すると、膝の上に置かれた能力証を試験監督へ返す。試験監督はそれを右手に持った。
もう一巡して、チハル先生が頷いた。
「終わりました」
チハル先生はそう云って、まだ持っている束も試験監督へ返す。試験監督はそれを左手でうけとった。能力証の束の三分の二を左手に持ち、残りを右手に持っている状態だ。
試験監督はこっくり頷いて、反対へ体を向ける。
「カンナ先生」
「はい」




