2010
「それを云うなよな……」
セロベルさんが停まり、その女性も停まった。女性は尚も、くすくすしている。ちょっと渋い顔のセロベルさんが俺を示す。
「こいつだ。マオ」
「ああ、このひとが、セロベル達のおすすめね」
女性はにっこりして、片手を出した。「初めまして。カンナ・ウィグレス、御山の事務です」
ディファーズ系……かな。裾野とのミックスだと思う。そんな感じ。
ちょっとふわっとした髪の毛は、太腿の辺りまで伸びている。梳かしているみたいだけれど、飾りはひとつもない。白と青と水色の生地をつかったドレスは、スカート部分がふわっと三角にひろがっていた。フリルの感じや、ぬいとりの感じが、ディファーズっぽい。
目は髪と同じ紫で、左目に片眼鏡をつけていた。眼鏡存在するんだな。この世界。
俺はのろのろと手を出し、握手に応じる。カンナさんのもう一方の手には、推薦状が握りしめられていた。
「マオ・クニタチです」
「宜しく。感じのいいひとじゃない、セロベル」
「ああ。それに、料理はその辺の料理人なら裸足で逃げ出すぞ。あと、収納空間がひろい」
「うん、うん……いいね。おたくで働いてるんでしょ? いいの、有能な人材手放して」
カンナさんはすっと手をおろし、セロベルさんを仰ぐ。俺は手をひっこめた。カンナさんの手は凄く冷たくて、この寒いなか、外での試験にずっと立ち会っているんだろうな、と思った。
セロベルさんが肩をすくめる。
「こいつが御山で奉公したいって、ずっと云ってんだよ」
「ふうん。従業員の意思を尊重する、いい経営者だね」
カンナさんはにこっとしてこちらへ向き直る。「ああ、わたし、経営相談役なんです。専門は経営。セロベルと同期入山。入山してからこっち、研究してるの」
「こいつが事務になってから、御山はより一層安泰になったって噂の、女傑だぜ」
セロベルさんが半畳をいれる。カンナさんははっはっはっと笑った。
「それじゃあ、行きましょうか。もと・補助教官や、次席下山者からの推薦があるかたなので、順番を繰り上げます」
「あ……ほんとに、いいんですか?」
「見込みのあるかたをとりたいので」
カンナさんは端的に云い、くるっと踵を返した。「セロベルと、護衛さん達も一緒に。あ、会場の外までだけどね」
「解ってるよ」
セロベルさんが返し、歩いていくカンナさんを追う。バルドさんに促され、俺もそうした。ヨーくんがひょこひょことついてくる。
「凄いんですね、セロベルさん」
「ほんとにね。流石、入山経験者は違う」
バルドさんがおどけて返した。




