2008
「じゃあ、今はカルサの実が狙い目なんですか、苦役の草原」
「はい。かなり熟してますから、収納空間じゃないと運搬できませんよ」
「へえ、今度行ってみようかな」
結構本気でそう云った。サローちゃんから、なんでもいいから持ってこい、と云われている。
薬材採取士さんは、にっこりして指を一本立てた。「なら、今みたいに、晴れた日の昼間がおすすめです。夜だと、葉と実の区別が難しいんです、あれ」
「そうなんだ。ありがとうございます、色々教えてもらって」
「いえいえ」
「あ、これ、皆さんでどうぞ」
ちょっとはなれたところに、いつもの護衛さん達が居たので、焼き菓子の詰め合わせとお握りの包みをさしだした。薬材採取士さんは嬉しそうに、それらを収納し、手を振って仲間の許へ戻る。
「マオ」
のんびり手を振りかえす俺の肩を、バルドさんが猛烈な勢いで掴んだ。
ひょいと体が浮く。気付くとバルドさんに負ぶわれていた。え?
「掴まっていて」
「え」
バルドさんが走り出した。
もの凄い速度で丘を駈け上がる。俺は振り落とされないように、バルドさんにしがみついてた。「バルドさん?!」
返事はない。バルドさんは片手を耳にあてる。
「ツィーク、馬車の用意。マオをレントへ戻す」
え? え? どうして?
バルドさんは一瞬で丘をのぼり、速度をゆるめずに駈け下る。どういうことか訊きたいのだが、振動が凄いので喋ったら確定で舌を嚙む。諦めた。
そもそもなだらかな傾斜がほとんどなくなった。丘をおりたのだ。一瞬だった。バルドさんは軽く息を乱しているくらい。体力すご。
馬車が見える。ツィークくんが御者台で手を振っていた。
「準備できてます!」
「出してくれ」
バルドさんが馬車にとびのって、俺をひょいと椅子に座らせる。馬車はバルドさん同様、相当な速度で走る。トゥアフェーノってこんなにあしはやいの?
向かいの席に腰をおろしたバルドさんは、手巾で汗を拭った。「マオ、そんなに軽いなんて、食べたものはどこに消えてるんだい?」
「はあ……おなかに?」
笑われた。凄く。
がったん、と馬車が揺れ、俺は宙を飛び、バルドさんにキャッチされた。バルドさんは俺をがっちり掴んで、外へ云う。「ツィーク!」
すみません、と、車体に遮られて不明瞭なツィークくんの声がした。
「あの」
バルドさんの髪が指に絡んだ。「どうしたんですか? レントで、なにか?」
「ああ、すまない、説明していなかったね」
もう一度、がったん、と揺れた。むちうちになりそう!
でもその直後、理由が解った。鐘の音がする。
下働きの募集が始まったのだ。




