2005
「なんだったんですか、用事は」
馬車が動き出すと、隣に座ったサキくんが云った。俺は微笑んで頷く。マルロさんは御者で、サイレくんも御者だ。トゥアフェーノにひかせるので、サイレくんが御者をしたがったのだ。マイファレット嬢とお出掛け、という緊張を、普段からよくやっている御者でごまかそうということらしい。
席は向かい合って、四人掛けなのに、サキくんは俺の隣を選んだ。まだ、ちょっと機嫌がよくないみたい。なんとなく、解る。この子は自分の気持ちを表に出すのが苦手だ。ジーナちゃんやリッターくん以上に。
サキくんに凭れかかった。「野暮用」
「野暮用?」
サキくんの腕が、俺の腰にまわる。俺は目を瞑る。のりものでは酔うので、こうやっていると楽だ。
「謝罪できるひとって素敵だよね」
というか、違うかな。なんだろう。素敵というか、自分が価値のある人間だと思えてるよね。
アフィテルディとかアデイールみたいなやつらって、本当の意味では自分に価値がないと思ってるんじゃないかな。だから、逆に、ひとをおさえつけて踏みつけにしてばかにして、それを自分の価値にしようとしてる。自分はゼロだけど相手はマイナスだから自分のほうが上、みたいな、くそみたいな価値観だ。
考えていると胸がむかついてきた。俺は目をうっすら開けて、なにかほかのことを考えようとする。
サキくんの体温は、ほーじくん程高くはないな、と思った。やっぱり、鳥っぽいひと達とか、犬っぽいひと達とかは、単なる人間とは代謝が違うのかもしれない。一緒に暮らすとしたら、お部屋とかお風呂の温度で、もめそう。
「じゃあ、僕は素敵じゃないかな」
「うん?」
我に返った。なんか、眠たいな。馬車はいいものなのか、サイレくんが巧くコントロ-ルしているのか、酷く揺れる感じはない。酔わずにすみそうだ。
サキくんの腕が上がってきて、抱き寄せられた。サキくんは、なんだか泣きそうな顔をしている。
「子どもみたいに、リッターやあの……彼に、つっかかって、ばかですよね」
「サキくん」
「僕ってどうしてこうなんだろう。マオさんに対してしか素直になれない。マオさんにならなんだって云えるのに」
俺は手を、サキくんの頭に置いた。軽く撫でる。「サキくんは、いい子だってば」
そうやってなやむのは、みんなそうなんだよ。俺はなんにもなかったけど、そんなもんなんだって。
「サキくんはみんなに好かれてるよ。それに、みんな、サキくんが素直じゃなくても嫌いにならないよ」




