2004
小首を傾げる。マイレさんはこちらを見ない。
「自分のかつての仕事で、君をまきこんだんだと思ってるからね、彼は。だから逃げた咎人のなかでも特にアデイールを、絶対に捕まえるんだといきまいてた。ほかの咎人を捕まえてから、レントに戻ってきてさ。多分ここに居るだろうって。自分はもう労役がすんでるのに」
ほんとに、結構な責任感の持ち主なんだな、あいつ。全然イメージと違う。
でも、そっか、俺にちょっかいかけてきたのも仕事だったんだと考えたら、プロだよな。あれ全部、演技っていうか……ウロアなりその手下なりに云われて、俺を騙す為にやってたんだとしたら、仕事に対して凄く真摯で責任感があるやつ、というのは頷ける。
「君が賭場にのりこんで、ウロアと賭けをするなんて無茶苦茶をしたのは、自分がウロアの腰巾着どもの云いつけで君を借金まみれにしようとしていたのが関わりあるし。それから、四月の雨亭に取り立てに来ていたのも自分だし、だから」
マイレさんは更になにか云ったけれど、意味の通らない言葉の羅列だった。自分でもなにを云っているのか解らなくなったみたいで、ぴたりと言葉を切り、片手で口許を覆っている。その手が、ぶるぶると震えていた。
このひとはテイズが好きなんだな、と思った。
俺はそれから目を逸らす。宿泊棟の辺りを、ぼんやり見た。いつかの、マイレさんの恨み言の意味は解った。テイズが俺に対して負い目がある、というのがいやなんだろう。鉱山での労役が終わってもなお、仕事だし、迷惑をかけたから、と、アデイールを必死に捕まえようとしているのが、ゆるせなかったんだ。テイズが俺の為に働いている、というのが。
視線を上にずらす。ふっくらふくらんだ小鳥が、数羽、飛んでいった。茶色に焦げ茶色がぱらぱら散った色合い。冬毛になったのかなあ。着ぶくれているみたいに見えて、可愛かった。
「ウロアが考えたことだよ。人攫いも、なにも」
「……え?」
「だから、まきこんだとか迷惑とかないし、ていうかテイズがそういうふうに気にしてるのが気持ち悪いし、柄じゃないからやめてって云っておいて」
マイレさんがぐりんと、こちらへ首を巡らせた。俺はちょっとだけ顔をそちらへ向け、にっと笑う。「あとね、マイレさん。テイズは俺のこと、好みじゃないと思うよ。ほら、俺ってがさつだし、食べもののことと寝ることばっかり考えてるし。多分、真珠がよく似合う、知的なひとが好みじゃないかな。計算がはやいひとなんか好きかもね」
マイレさんは目をしばたたき、それからくすくす笑った。




