2003
「癒し手が駈けつけて、怪我人の治療が終わるまで、ひと晩かかったそうだよ」
「どれくらいのひとが、怪我したの」
「テイズも正確な人数は知らない。でも、多分、咎人は百六十から百七十人、近くの村のひとは、三十から四十人」
目を剝いた。かなりの人数だ。それで、治療にかかった時間がひと晩なら、凄くはやい。近場に居た癒し手や、癒しの力を持っているひと達が、集結したのだろう。それだけの大騒動になっていても、レントにはそんな話ひと欠片もはいってきていない。
俺が知らなかっただけ、ではないだろう。マイレさんだって、知らずにテイズを待っていた。この世界はとてもひろい。
マイレさんは哀しそうに微笑み、頷く。「酷い怪我のひとも居たけれど、さいわい、死人は出なかったそうだよ」
「あ……よかったね」
思わずはしゃいだ声を出すと、マイレさんはちょっとだけ、くすっとした。
「本当に。もし誰か死んでいたら、テイズは一生、僕よりもそのひとのことを考えるだろうからね。そんなのゆるせない」
憎悪らしいものをこめて、そう吐き捨て、マイレさんは顔を背ける。俺はなにも云わない。
五秒くらいして、マイレさんが普通の声を出した。
「テイズ達は、咎人の頭数を慥かめ、脱走した者が居ると気付いた。治療がすんだ咎人から、複数人がわざと落盤事故を起こしたらしいこと、村のひと達から、居なくなった咎人に似た容貌のやつらが村を襲ったこと、を、聴いた。鉱山を管理している、傭兵協会の人間が、ほら。当然、咎人の名簿と、能力証明証を持っているからさ」
そうだね、と返した。名簿がないと、誰をいつ釈放する予定なのか解らなくなるし、あって当然だ。真面目にしていたら刑期が短くなったり、するのかな。
能力証は、逃げられないようにとりあげているのだろう。脱獄して井に行ったら、能力証をとる段で(もしかしたらそれより前に)脱獄犯だとばれるだろうから、とりなおすのはリスクが高い。幾ら愚かな脱獄犯でも、そこまでばかではないだろうから、能力証はとりなおさないと思う。
「逃げていない咎人とつきあわせて、誰が逃げたのか特定した。テイズ達は、まだ遠くまで行っていないかもしれないからって、近場をさがすように命ぜられて、能力証と人相書きを見たんだ。人相書きには、なにをして捕まったのかも書いてあった。ラッツァクの人攫いに関わっていた上に、逆恨みで四月の雨亭を襲撃して、鉱山に送られた。アデイールの人相書きにそう書かれているのを見て、テイズは身のすくむ思いだったそうだよ」




