1999
サイレくんは、ちょっと緊張したらしい。声がかたかった。そりゃあ、入山者の先輩だし、来年は御山で顔を合わせることになるんだもの、緊張もする。
「ほとんどの属性の魔法は、簡単なやつだけですけど、つかえます。烙印とか、耐水、豪風とか……ああ勿論、恩寵魔法はつかえませんけど」
冒瀆魔法のことはまったく話題にのぼらない。つかえないのが当然、つかえるひとは殺されるのが当然、それが冒瀆魔法だ。悪しき魂に対して、用捨することは普通ない。
リッターくんとマイファレット嬢は、俺がつかったのが冒瀆魔法だって、解ったのかな。解って庇ってくれているのか、それとも単に、魔法なんてつかえないと云っていたのが嘘だったことを庇ってくれてるのか……。
いや、違うよな。冒瀆魔法だって、解ってる筈だ。解っていなけりゃ、あの後、どうして隠しているのか、とか、警邏隊にだけは云ったほうが、とか、そういう話になったに違いないから。
ふたりとも、まったくそんなこと云わなかったし、マイファレット嬢に至っては俺が魔法をつかったなんて、俺に対してさえおくびにも出さなかった。なにもなかった、という態度をとってくれた。
隠すだけの理由がある。そう解ってくれている。だから、冒瀆魔法だって、気付いているんだ、きっと。
「武器は、片手で扱えるものなら……あんまり、長さがあるのは、苦手ですけど。短剣や片手剣なら大概扱えます」
「それは頼もしい」
サイレくんとサキくんが喋り、スルくんが微笑んで頷いている。
スルくんの表情は、昨日よりは随分、柔らかくなった。これから、つらいことが多いだろうけれど、リッターくんやサキくん、マイファレット嬢が居る。きっとなんとかなる。
リッターくんと目が合った。どうして庇ってくれたのか、訊こうか、と思う。でも、訊くのがこわい気もする。どうあっても庇った、と云われたら心強いだろう。でも、そのことは喋りたくない、と云われたら、抱かないでもいい疑念を抱く気がする。庇ったことを後悔しているかもしれない、騙されたと怒っているかもしれない、と。
そう。ふたりが、俺を庇ったことを、後悔していない保証はない。だからこわい。俺はずっと、みんなを騙しているからな。
リッターくんが小首を傾げた。「マオ」
「ん? なに?」
「……気分が悪いのなら、無理にでかけなくてもいいのではないか」
頭を振った。
「でかけたいんだ。だから、気にしないで」
リッターくんは小さく頷き、サキくんがそれを心配そうに見た。
誤字報告ありがとうございます。助かります。




