1997
我慢ができない、という表現は、とてもよく解る。どうしてこのひとはこんな目にあわなくちゃならないんだろう、と思うと、哀しいし憤ろしい。
ミューくんだって、きっとそう思ってる。ただそれよりも、自分が治す、という気持ちがうわまわるのだろう。
「傷病者を治療するのが仕事である癒し手が、傷病者を見ておじけているのでは、お話になりません。かりにアエッラに、ミューのようにふたつ癒しの力があるとしても、きっとアエッラはしりごみします。それに、癒し手としての誇りが、アエッラにはないのです。ただ単に、神聖公がそう定めているからというだけの理由で、癒し手になることを選んだ」
マイファレット嬢はちょっと黙り、頭を振る。「いえ、父親に命ぜられたから、ですわね。そのような主体性のなさは、癒し手にはあるまじきことだと思うのです。癒し手は確固たる自我を持ち、恢復魔法にたいして誇りを持って、治療にあたらないといけません。哀しいことですが、癒し手ひとりでは助けられる人数に限りがあります。いざという時、誰を助けるか、選ばないといけませんから、強い意思を持っている必要があるのです」
言葉の意味は解った。それに、マイファレット嬢が癒し手になることをためらっている理由も。そういう情況で、自分は選べない……ということだろう。
俺は頷いた。慥かに、裾野で癒し手になれば、儲けられる。マイファレット嬢は強いし、戦える癒し手として、依頼はひきも切らないだろう。想像はつく。
でも、当人がのり気でないなら、癒し手になるべきではないと思う。幾ら儲かるからって、負担が大きすぎる。特に癒し手は、ひとの生死に直に関わる職業だ。誇りがないとできない、というのは凄くよく解る。
「俺は、マイファレット嬢がそう決めたのなら、それでかまわないと思いますよ」
「そう……ですのね」
マイファレット嬢は息を吐く。反対されなかったので、ほっとしたらしい。ディファーズで生まれ育った感覚では、癒し手にならないなんて反対されて当然なこと、なのだろう。
でも、心配なので、云った。
「癒し手になりたくないのは解りました。でも、ほかになりたい職業があるんですか?」
「はい」
マイファレット嬢はにこっとする。サイレくんがたじろぐ。
「アエッラ、耕作人になりたいのですわ。ですから、今度のお休みで、ベッツィさんにお話を伺えないかと思っていますの。お母さまやお兄さまを説得しないといけませんから、その材料を集めたいのです……」




