1996
ところが、学長の言葉で、癒し手以外にもみちがあるんだ、と気付いた。そこから暫く、なやんだそう。
「癒し手は、お金を儲けるのには、とてもいいですわ。ディファーズでならそんなことはできないですが、裾野なら、治療費として、それなりのお金を戴けます。そうしていれば、学び舎は安泰ですし、来年もお兄さまに護衛をつけることができますわ」
マイファレット嬢は目をぱちぱちさせる。ちょっとだけ、涙ぐんでいた。
「わがままなのは解っていますの。でも、癒し手になったとて、アエッラは大成できない。ミューを見ていてはっきりしました。アエッラ程度では、癒し手になっても三流四流です」
「そんなこと」
否定しようとする俺を、マイファレット嬢は片手で制す。
「いえ、そうなのです。ミューは慥かに、癒しの力をもともとふたつ持っていて、恵まれてはいると思います。アエッラには癒しの力はありませんから」
俺はなんとなく、頷く。それは真実だからだ。ジーナちゃんやミューくんは、マイファレット嬢には癒しの力があると思っていたみたいだけれど、それも多分、マイファレット卿の戦略だろう。そう思わせておいたのだ。
「でも、癒しの力がなくったって、恢復魔法がつかえるのですから、努力次第ではどうとでもなる筈なのです。その努力が、とても難しい。ミューの頑張りは、アエッラに真似できることではありませんわ。ディファーズでも、裾野でも、毎日のように廟へあしを運んで、傷病者を治療していました。困窮していて廟にも来られないようなかた達の許へも、わざわざ赴いて、無償で癒してきたのです。すべて、癒し手として大成する為、ファバーシウス家の名にはじない癒し手になる為に」
ミューくん、廟以外でも診療していたのか。しかも無償って、慥か癒し手が無償で治療した場合、家族になる意思があるって意味になっちゃうんじゃなかった?
そういうことを差し引いてでも、癒し手としての技量を上げる為にやっていたのか。それは本当に、凄い努力だ。
「ミューは、どんな怪我でも、どんな病でも、冷静に診察して、冷静に治療しますの。先生がたも驚くくらいに完璧なのです。まだ癒し手ですらないのに。……おはずかしながら、アエッラは、病で苦しんでいるひとを見ると、とてもその……我慢ができません。どうしても、こわくなって、逃げ出したくなります」
それは仕方がないだろう。多分、こわい、のじゃなくて、病気で苦しんでいるひとを見ると、可哀相になるのだと思う。




