1993
「あら」マイファレット嬢は小首を傾げ、上体を少し屈める。「サイレさん。どうなさいましたの? お加減が宜しくないのかしら」
「全然、元気ですっ」
サイレくんが立ち上がった。ぎこちなく微笑んで、意味なく頷いている。マイファレット嬢は姿勢をただし、目をぱちぱちさせた。どっちも可愛い。
俺はにこにこして席を立つ。
「マイファレット嬢、サイレくんから、来年のことは聴いてます?」
俺が云うと、マイファレット嬢は寸の間考えて、微笑んだ。こっくり頷く。
「入山のことですのね。勿論うかがっていますわ。ライティエさんがご自分のことのように喜んで、自慢してらしたんです。今年は優秀なかたが多くて厳しいそうですのに、凄いですわね、サイレさん」
うふふ、と、マイファレット嬢は笑う。サイレくんが額の汗を拭った。
ライティエさんは入山できなかったひとだけれど、だからこそ、試験がどれだけ厳しいか、入山できた子達がどれだけ努力してきたか、知ってる。顔見知りや知り合いの入山が決定すれば、俺なんかよりずっと嬉しいだろう。
俺は異世界人なので、多分こちらの世界のひと程入山の重要性を理解していない。凄いことだってのは解るんだけど、入山できないからって(それがふりだとしても、勿論本気でも、)自殺未遂までするかね? とも思っている。
俺はえへへと笑う。
「じゃあ、サイレくんが入山前に、暫く傭兵をやることは?」
「存じています。セロベルさんの発案だそうですわね。とてもいいことだと思いますわ」マイファレット嬢は楽しそうに、ちょっとだけ上下動した。柔らかい金髪がふわっとする。「御山の実技の訓練は、為にはなりますけれど、どうしても対人戦ばかりですから。魔物をつれてくる訳に参りませんから、それは仕方のないことだと承知してはいますわ。でも、実際に戦うのは、魔物相手のほうがずっと多いのです。ですから、魔物相手でも充分戦えるようにする為に、傭兵をしてみるというのは、素晴らしいですわ」
ああ、そういうことになってるんだ。実際は、マイファレット嬢とか、もしかしたらほかの一般寮の学生とかと仲好くなれる機会として、傭兵をしてみたらって話なんだけどな。
まあ、そう云われたらマイファレット嬢がかまえちゃうかもしれないし、だからライティエさんはその意図を伝えなかったのだろう。マイファレット嬢は控えめだから、わたくしと親しくするよりほかのかたのほうが適任ですわ、みたいになりそうだもの。




