1396
ミューくんは気分が悪そうに、その場にしゃがみ込んでしまった。サキくんとセロベルさんが肩をかし、厨房へ戻る。
「すみません」
冷たいお茶を飲むと、ミューくんは少しだけ落ち着いたみたいだった。
「あそこまで悪化してるひとは、廟以外ではほとんど見ないので、動揺してしまって。廟に居るひと達は、毎日適切な治療をうけていますから、あそこまで辛そうじゃないし」
「そんなに悪いのか」
「かなり……ほんと云うと、あと半年どころか、放っておいたら十日保ちません」
セロベルさんがこちらを向く。俺は首をすくめてみせた。
フィーデレンシルさんが病気だったのは、今考えたら意外でもないかも。体の具合が相当悪ければ、口調もきつくなる。だからって、ハーヴィくんへの仕打ちはゆるされたものじゃないけれど。
ただ、多分フィーデレンシルさんは、体調が悪い自覚がある。ミューくんが症状を云ったら黙ったから。でも廟には行っていない。医師にも診てもらっていないと思う。
ミューくんも云っていたが、銀貨数枚が自由にならなかった、ってことだろう。詰まりアフィテルディはくず。
侍女さんが戻ってきて、ジーナちゃんの要望が通ったと伝えてくれた。チェルノーラ夫人は、ミューくんの治療にジーナちゃんが手をかす、というのに魅力を感じたのだ、きっと。共同作業的な。
ミューくんは安堵の息を吐く。「ああ、今度ばっかりは、君の母君に感謝しなくちゃな。ありゃあかなり長引く。お金が続かなくて廟を出ていったら、お仕舞だ。まったく、ああなるまで放っておけたのが信じられないよ」
「そこまで……」
「もういつ心臓が停まってもおかしくなかった。手斧草を嚙んでる様子はなかったけど、配偶者が手斧草を嚙んだ後に口をゆすがないだけでも悪影響だ。それに、あの病には酒もよくない。きちんと養生してもらわなきゃ」
アフィテルディはお酒を吞むみたいだし、フィーデレンシルさんも吞むのかも。手斧草、と云えば、賭場では嚙んでいるひとが多かった。アフィテルディもそのクチだろうか。
ハーヴィくんが、バルドさんにつれられてやってきた。患者の家族にはきちんと説明をと、ミューくんがハーヴィくんと話したがったのだ。
虚脱状態のハーヴィくんを椅子に座らせ、ミューくんは慎重に言葉を選んで、フィーデレンシルさんのことを説明する。ハーヴィくんは、ミューくんが話す程に、顔から血の気がひいていった。
「じゃあ」声が酷く震え、掠れている。「ねえさん、しんじゃうの?」
「大丈夫。あの病は放っておいたら拙いけれど、きちんと治療さえすれば治る。治療費も確保できているし、半年くらいかけてじっくり養生すれば」
「本当に? 死なない?」
ハーヴィくんは目にいっぱい涙をためている。「死なないよね?」
ミューくんが左掌を見せた。「死なない」
ハーヴィくんはミューくんの手を掴んで、お願いしますと云った。




