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ミューくんが、サッディレくんとアーレンセさんに頭を下げた。「このひとを廟へつれていってもらえませんか」
「みゅ。ミュー、そんな、頭下げないでっす」
「そうですよ」
「このひとは相当重い病なんです。でも、俺はこの頭じゃ、廟には近寄れないから……お願いします」
サッディレくん達は目を合わせ、寸の間沈黙した。それから、ふたり揃ってミューくんへ頷く。
ジーナちゃんが、どこからかお財布と、手巾をとりだした。お財布はしっとりした革製のもので、お金でぱんぱんにふくれあがっている。
ジーナちゃんはこだわりなく、ひろげた手巾に貝貨を十数枚移し、お財布を仕舞いこんで、手巾をたたんだ。フィーデレンシルさんの手に持たせる。「治療が長引いたら、お金が必要になるでしょう。これでまかないなさいな」
「え……?」
「ただし、これは治療費よ。愚かしい真似はしないように」
ジーナちゃんは無表情に、フィーデレンシルさんの髪からヘアピンをぬく。髪がばさっと肩に落ちた。ジーナちゃんはミューくんへヘアピンを差し出し、ミューくんは苦笑いでうけとった。治療の対価、ということだ。
アーレンセさんが、フィーデレンシルさんの手から、お金の包みをそっととりあげた。「わたしが、司教補さまへ渡します」
「ええ、お願いアーレンセ。それから、治療の為になにか入り用になったら、チェルノーラ家へ請求するように伝えて頂戴。インシャ?」
「はい、お嬢さま」
「ミューが重病人を見付けて、治療費が必要だから、廟から請求があったら応じてもらいたいと、お母さまへ伝えて。もしだめなら、わたしのお金から工面できるよう手配を」
「かしこまりました」
白髪の侍女さんが、丁寧なお辞儀をしてから通りへ走っていった。フィーデレンシルさんはすすり泣いている。「いやよ……死にたくない……」
「きちんと治療をすれば大丈夫ですよ」
「どうしてあたしばっかりこんな目にあうの? どうして?!」
「病には善も悪もない。善人ならかからないとか、悪人がなるってものじゃない。あなたを罰する為じゃあないんです。なったものは仕方ないと諦めて、治療に専念してください。きちんと治療さえすればよくなります」
「ハーヴァンサンディアル」フィーデレンシルさんはぶるぶる震えている。「あのこにごはんをよういしなきゃ。あのこにひもじいおもいをさせられない。あたしははたらかなきゃならない!」
乗合馬車が門の向こうを走っていった。サッディレくんが、駅で乗合馬車を停める為に走っていく。アーレンセさんがフィーデレンシルさんを促し、通りへ出て行く。フィーデレンシルさんはすすり泣きながら、ゆっくり歩いて行った。
ミューくんが長々と息を吐く。「あそこまで放っておけるなんて。たったの銀貨1枚でも自由にならなかったのか」
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