1394
リッターくん、少し遅れてジーナちゃんが、フィーデレンシルさんへ歩み寄る。「こちらのかたが、具合が悪いの? ミュー?」
「ああ、凄く悪い。はやく治療しないと死ぬぞ」
セロベルさんがぎょっとして、じたばたするミューくんを地面へ降ろした。フィーデレンシルさんは目を瞠っている。
「なあに、脅すつもり? そんなの通じないわ」
「どうでもいいからそれ以上喋らないで」
ミューくんはぴしゃりと云って、フィーデレンシルさんへ駈け寄り、燕息をかける。そして、ちっと舌を打った。
「だめだ、これは一度じゃ治らない。紹介状を書きますから、廟へ行ってください」
「はあ……?」
「ただし、成る丈歩かないでください。走るのは絶対だめです。移動は乗合馬車で。魔法の使用も当分控えて。手斧草も絶対にだめです。それから、仕事は暫く休んだほうがいい。西四十三番区の廟ならここから近いし、昼と晩の食事付きで、銀貨何枚か出せば泊まれます。そこへ行ってください。入山がなきゃ、俺が治療したんだけど」
ミューくんは慌てた調子で云って、こちらを振り返る。「マオさん、紙と鉛筆貸してもらえますか?」
「あ……うん」
云われた通り、紙と鉛筆を渡した。ミューくんは会釈して、うけとる。
「ちょっと、ど、どういうこと? あたしは健康よ!」
フィーデレンシルさんが不安げに喚く。ミューくんがそれを睨んだ。
「亢奮しないで。心臓に負担をかけたらいけません。動きが停まります」
「はあ?」
「ここに異常があります」
ミューくんは鎖骨の辺りを示す。「階段をちょっと上り下りしただけで息切れするでしょう。走ってもいないのに心臓がどきどきする。なんでもないことが気に触って腹が立つ。いらいらする」
あてはまることがあったのか、フィーデレンシルさんは言葉に詰まる。
ミューくんは紙に鉛筆でなにやら書きつけ、こちらへ鉛筆を返す。それから、紙をフィーデレンシルさんへ差し出した。もう一度燕息をかけ、溜め息を吐く。
「どうしてここまで放置したんですか。ディファーズ系でなくとも、廟へ行けば銀貨1枚で診療してもらえます。はやくに治療していたらここまで悪化しなかったのに」
「あ。あたし、病なの? 嘘でしょう?」
「嘘でこんなことは云いません。あなたは病です。それも、相当悪化してる。放っておいたらあと半年保ちません」
フィーデレンシルさんは目をぱちぱちさせた。ミューくんは二度、三度、と燕息をかけ、深く息を吐く。「申し訳ないが、あまりに悪化してる。魔法だけでは効果がうすいです。仕事を休んで、廟でじっくり治療してもらってください。これを渡せば的確な治療をうけられます」
「仕事を休むなんてそんなのできない! お金がなかったら、あのひとに嫌われる、やっと結婚できたのに離婚なんていやよ」
「あなたの命がかかってるんですよ」ミューくんは低く、脅しつけるみたいに云った。「命よりも給金をとる旦那さんなら別れたほうが賢明です」
フィーデレンシルさんははあはあと荒い呼吸をして、それから泣き出した。




