1393
ハーヴィくんが駈け込んできた。「ハーヴィくん?」
俺はさっと立ち上がって、厨房の隅で踞って耳を塞いでいるハーヴィくんへ近付く。ミューくんも来てくれた。
「どうしたの?」
ハーヴィくんは壁へ向いていて、答えない。ミューくんが燕息をかける。ジーナちゃんが席を立った。
「……この間の子ね」
「ああ、ジーナちゃん、ハーヴィくんと会ったんだよね……」
ハーヴィくんはじっと動かない。心配そうにそれを見ていたセロベルさんが、外へ出て行った。と、声が聴こえてくる。
俺は外へ走り出していった。
俺の耳は充分に機能しているらしい。前庭に思った通りのひとが居た。
「弟を返して」
フィーデレンシルさんだ。ぼさぼさの髪をなんとかピンで留めて見られるようにしている。セロベルさんと、サッディレくん、アーレンセさんを睨む目が、血走っていた。
「弟を。あの子はわたしの弟よ。あんた達は人攫いだ!」
「御山にゆるされて、あいつを預かってるだけだ」
セロベルさんは淡々と返す。サッディレくんは杖を握りしめ、アーレンセさんはフィーデレンシルさんから目を離さない。
俺はセロベルさんの斜め後ろに立った。フィーデレンシルさんから睨みつけられる。「あんた……」
「どうも。お客さんじゃないなら帰ってください」
「なによ! 弟を返しなさい。あたしはあの役立たずを育ててやったんだ! 恩を返してもらったってばちはあたらない筈よ」
「営業妨害ですよ」
不法侵入と業務妨害でもとの世界だったらしょっ引いてもらえるのだろうが、こっちだとどういう扱いなのか解らない。テイズ達が見逃されてたから、罪にはならないのかも。
とはいえ、迷惑だし、前庭で騒がれたらお客さんが這入ってこられない。充分に警邏隊案件だと思うな。
まだまだ口汚く俺を罵っていたフィーデレンシルさんが、突然口を噤んだ。俺の背後を見ている。
振り返ると、ミューくん、サキくん、ジーナちゃん、リッターくんが居た。ゆっくり歩いてくる四人とも、いいところの子女感が凄い。特に、豪華なドレスのジーナちゃん、かっちりした外套のリッターくんは、品のよさが半端じゃなかった。その後ろにはジーナちゃんの侍女さん達が居て、更に高級感。
「なんの騒ぎなのかしら。マオ?」
「あー」俺はちらっとフィーデレンシルさんを見て、ミューくん達へ目を戻す。「ちょっとね。ハーヴィくんのこと」
ミューくんがフィーデレンシルさんを見て、ぐっと眉根を寄せる。気分が悪いのか、口を片手で覆ったが、さーっとフィーデレンシルさんへ駈け寄る。セロベルさんがミューくんの腰の辺に両腕をまわして抱き上げた。「ミュー?」
「放してください」
「どうしたってんだ」
「治療です。なんてことだ。やらないと大事です!」
え?




