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食後、久々に――――すっごく久々に、ジーナちゃんが四月の雨亭の厨房へ這入った。リエナさんが大喜びで、ふたりは早速お菓子をつくりはじめた。ミューくんはテーブルへ寄りかかり、にこにこしてそれを見ている。侍女さん達は、中庭で待機中。
「綺麗なかたですね」
ソルちゃんが耳打ちしてくる。俺は頷きを返す。ジーナちゃんはヴェールをずらし、顔が見えるようにしていた。髪が短いのも可愛いと思うのだが、ジーナちゃん当人はいやみたいで、見せたがらない。
ソルちゃんに、後ろからコーラちゃんが抱き付くみたいにした。「ほんと、美人。ミューさん、綺麗な女の子見ても平然としてるの、きっとジーナさんを見慣れてるからね」
「そうだよねえ。ミューさん、女のひとにももてるのに、全部軽くあしらってるもん」
あー、ミューくん、傭兵のおねえさんがたにも人気あるもんな。まもってあげたい、可愛い、って。男に興味ないけどミューくんは可愛い、なんてひとも居る。
俺の感覚だとミューくんは、逞しい訳じゃないがちゃんと男の子、なんだが、こっち基準だと髪が短い所為か相当に補正がかかっていて、女の子っぽく見えるらしいのだ。ミューくん、似合ってるし、今の髪型。
それ考えると、リッターくんは短髪なのに女の子扱いされないなあ。どうしてだろう。顔付きの所為? それとも、がっしりしてるからかなあ。声も掠れてて低めだし。サキくんは、単純に美少年。声も綺麗。低めのアルト、かな。
ジーナちゃんのパウンドケーキはとてもおいしくて、お相伴にあずかったみんなは口々に誉めた。ジーナちゃんは面映ゆそうに、かすかに笑う。
「マオやリエナのようにはできないわ」
「あら、ジーナ、みんながあなたみたいに上手にお菓子をつくれたら、料理人や菓子職人は干上がっちゃうわよ」
リエナさんがそう云うと、ジーナちゃんは嬉しそうにして、俯く。
明後日には入山だし、と、セロベルさんが、ミューくんとジーナちゃんとサキくん、そして俺を厨房から追い出す。適当にぶらついて、話でもしてこい、と。
俺達は、通りを歩く。誰ともなく、市場へ向かった。侍女さん達は、少し離れてついてくる。
ジーナちゃんは再びヴェールを被り、ミューくんと腕を組んでいる。
「なんだか、変な感じ」
「なにがだい?」
「……あなたとこうして腕を組んでいるのが、変な感じなの。わたし、この……みっともない髪がいやで、ただでさえ美しくもないのに、尚更」
「君は綺麗だよ」
ミューくんは言下に云う。「それに、優しくて、まともだ。君はね」




