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八月三十日。ミューくんとジーナちゃんが、朝ご飯を食べに来た。
薬工房から戻ると、ふたりが来ていて、食堂でお祈り中だった。ジーナちゃんの侍女さん達も居る。勿論、そちらもお祈り中。
「お祈り中に襲われたらどうするんっすかね」
たまごを泡立てながらサッディレくんが云う。今朝のメインは、ふわふわのスフレオムレツ。
セロベルさんが軽く返した。「応戦」
「え、いいんだ」
「そりゃ、命のほうが大切だろうよ。でも、あれだぞ、あの格好を辞めるだけで、祝詞喚きながら剣ぶん回したりするから、逆に厄介だぞ」
「へー」
俺は焼けたスフレオムレツをお皿へ移す。お祈りしながら戦うって、こわいかも。
ジーナちゃんは、今日もヴェールを被っていた。紫が勝った青で、数枚重ね、オブシディアンのヘアピンで留めてある。ドレスは黒地に金糸でぬいとりがされていて、裾からはたっぷりの白いペティコートがはみだしていた。
「おはよ、ミューくん、ジーナちゃん」
「おはようございます」
「おはよう、マオ」
トレイを運んでいった俺に、ジーナちゃんはちょっとだけヴェールをめくり、顔をしっかり見せてくれた。今日も美人さんだ。少しだけ、目のまわりが黒ずんでいた。ヴィタミン不足だ。
トレイを置く。侍女さんのテーブルには、グエンくんが給仕していた。侍女さん達は、可愛いグエンくんに、ちょっと動揺している。
「おいしそうね」
「ジーナちゃんの好きなゼリーだよ」
「嬉しいわ」
俺はにこっとして、それからミューくんへ云う。「ミューくん、昨日はジーナちゃんのご飯食べたんじゃないの?」
「ええ」ミューくんはお匙を掴み、スフレオムレツを掬った。「ジーナはここで雇ってもらいたいのじゃないかな?」
「そこまで上手じゃないわ」
ジーナちゃんがくすっとして、ミューくんの鼻をちょんとつついた。ミューくんは微笑んでいる。ミューくんはだいぶ冷静になったみたい。
招かれたので、お茶を注いでまわっていたセロベルさんに許可をとり、ふたりと同じテーブルへ着いた。まかない!
ふたりは低声で、昨日あれからラスターラ邸であったことを話してくれた。ジーナちゃんは、ミューくんを助手にして、クッキーを焼いた。それから、ふたりで弓の練習。ミューくんは、的に一本も当たらなかったとくすくすしていた。ジーナちゃんは相当腕を上げたそう。弓を沢山買った甲斐があったわと、ジーナちゃんは満足げ。
ジーナちゃんは、入山するまでミューくんと会わないつもりだった、らしい。「入山して暫くは、下へは降りられないから……ミューが怒っても、すぐには、お父さま達に会えないだろうと思って」
「君の悪知恵にはおそれいるよ」
ミューくんはそう云いながらも、にっこりしている。




