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リエナさんは、拍子ぬけしたみたいに、からになった型を流しへ遣る。レンウィくんが洗いにかかった。
「なあんだ……でもそれって、フィーナーナがリューヴァの妻になるってことではないの?」
「そう云うことじゃないな。別口だ」
「そうなのね」
うん?
今の、どういう意味? ランツィスは男性で、その許嫁がリューヴァってことは、リューヴァは女性だろ。その妻って?
こんがらがってきた。男のひとが男を囲う場合は、妻とは云わないみたいだけど、女性が女性を囲う場合は妻って呼ぶのかな。うん? どういうことだろう。リューヴァが祇畏士なら解るんだけど、癒し手らしいし。
俺の困惑が解ったみたいで、グエンくんが云う。
「マオ、ディファーズの出なの?」
「え、どうして?」
「だって、ディファーズでは、女のひとが妻をもつのってめずらしいみたいだから」
?
俺がきょとんとしているので、セロベルさんとツァリアスさんで説明してくれた。
この世界では、血のつながっていない養子と云うものがめずらしくない。きょうだいや親戚の子をもらうのでなく、まったく縁もゆかりもない子を迎える、ということだ。優秀な子のほうがいいという考えのひとは、実子が居ても優秀な養子をとり、跡を継がせる。職人なんかはそれが多い。エンバーダート家も、ファバーシウスの血が絶えたのはそれで、みたい。
一方で、血のつながった子どもがいい、って考えもある。めずらしくて有用な職業を多く輩出している家系は、その考えが強い。そういう場合、側室を迎える、と云うのがまず最初の手だ。高位の家だと、それを見越して、嫁入りの時に侍女を沢山つれていく。側室候補として。
勿論、子どもができない理由は沢山ある。器質、体質、夫婦互いに興味がないなど、など。そういうひと達が、側室や養子以外に、子どもを授かる方法がある。
それが、妻が妻をもつ、こと。要するに、奥さん公認のお妾さん。子どもができる気配がない場合、奥さんが見込みのある女性に頼んで契約し、公的には自分の妻になってもらい、子どもを得ようとするのだ。側室と違うのは、年季があるところ。
それって奥さんの立場は? と思ったけれど、いいこともある。側室もだが、この方法で子どもができなかったら、不妊の原因は男性側にあると解るのだ。そうなれば、仮に離婚になっても、子どもができないかもしれないと云う理由で次の縁談が潰れることはない。だから、結婚からある程度たっていて、子どもを望んでいるのに巧くいかない時、妻が妻をもつ、ということはままある。
単純に、旦那の愛人や側室が気にくわない、と云う理由で、対抗馬として連れてくるパターンもあるのだそう。
妻の妻は、基本的には子どもができなかったら三年、できたら子どもが生まれて三年で、年季が明ける。そのまま妻の妻として残ることも、側室になることも、きっぱり縁を切ることも、いい相手を紹介してもらってそっちと結婚することもある。けど、普通はビジネスライクに、それまでの分のお手当をもらって家を出る。
健康体で、子どもを産める年齢・状態で、犯罪歴がないなら、結構お声がかかるらしい。男性同士のカップルでも、養子以外の手段だと、きちんと取り決めをしてお金を払い、子どもを産んでもらうというのは一般的。裾野に女性娼妓が少ないのは、そう云うのも関わりがあるみたいだ。




