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「裾野やシアイルでは当たり前だが、特にディファーズでは、妻の妻はめずらしい。側室もな。神聖公が何人の妻をもっているかを踏まえて、高位の人間は婚姻する。ここ暫く、神聖公は妻をひとりしかもっていない。だから、高位の人間はそんなに側室をもたない。ま、公にしていないだけって場合もある。義理の妹ってことにしたり、な」
まさに、チェルノーラ夫人がそのパターンだ。俺は頷いて、気になったことを訊く。
「それって、子どもはどうなるんです?」
「見込みがあるなら養子にもらえばいい」
あー、成程。もとの世界とはかなり違う感覚みたい。
ファバーシウスはそもそも側室をもたない当主がほとんどだし、ミューくんもそうなるだろうから、安易にジーナちゃんとは結婚させないのだろう、とは、セロベルさんの弁。そんなものなのかな。でも、ジーナちゃん、結婚できなくてもミューの子どもを産むくらいは、なんて、思い詰めてたけど。
お菓子の仕込みで疲れたので、休憩に中庭へ出た。黙々とかごの補修をしていたサキくんも、ついてくる。
ぐーっと伸びをした。厨房からは甘い匂いがする。お茶っ葉いりのパウンドケーキ。
サキくんがふっとこぼした。
「面倒なことだな」
「え?」
「……いえ。色々、考えてたんです。子どもがないなら、養子を迎えればいいのになって。それに、女性ばかりが責められる風潮も、おかしなことですよね」
「あー。うん」
なにかと女性側が悪く云われがちだが、きちんと原因を調べないとなんとも云えないもんな。それに、原因がある側が責められていい、ということでもない。当人がそう望んだ訳じゃない。器質も体質も、意思だけでどうにかなるなら誰も困らないだろう。
サキくんは屈み込んで、ぷちぷちとどくだみを摘み、放り投げた。「まあ、僕みたいななんの役にも立たない人間も居ますけど」
「サキくん」隣に屈み込む。「俺のお願い忘れた?」
「……やっぱり、僕が勝ちと云うことにしておくんだったな。そうしたらマオさんに、無茶な頼みをしたのに」
「むちゃ?」
「ええ。……僕のものになって、とか」
どきっとした。
サキくんを見ると、にやにやしている。からかわれたのだ。俺は、結構強めにサキくんの肩をひっ叩く。
「そういうの、よくないよ」
「ごめんなさい」
「あのね」
「マオさんには、ティヴァイン家のご子息が居ますものね?」
もう一度ひっ叩いて、俺は小走りに厨房へと向かった。サキくんが謝りながら追いかけてくる。「マオさん、ごめんなさい……」
俺は方向転換して、裏庭へ走る。だめだ。このところ、冷静になれない。
「マオさん?」
ほーじくんのことを考えたくない。




