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あ……もう、俺ってどうしてこうなんだろう。サキくんはジーナちゃんのことが好きなんだ。ミューくんとジーナちゃんを、素直に応援できる訳ない。
「サキくん」
「僕も彼みたいに、ミュー達を応援してあげないといけませんね」
サキくんはこちらへにこっとした。「あのふたりはあつらえたみたいにぴったりだ。誰だって邪魔をしちゃいけない」
俺がなにか云う前に、サキくんは乱暴に俺の腕をとって、北へ向かって歩き始めた。怒ったみたいに跫高く。
四月の雨亭では、リエナさんが前庭をうろうろしていた。俺とサキくんに気付くと走ってきて、俺達は捕獲される。厨房へ引き摺りこまれた。
ジーナちゃんの髪が短くなっていたことと、ミューくんがジーナちゃんの傍についていることなど、差し障りのなそうなことだけ説明した。リエナさんはほっとした様子。
「ああ……そうだったのね。髪を……だから、あんなふうに、顔を隠していたのね。ジーナ、可哀相に」
「神聖公国らしいっちゃらしいな」
セロベルさんはお茶を淹れている。まだ数組、お昼のお客さんが居るようだ。「娘の髪を切って、許嫁を焚き付けるか。まったく……」
「でも、ものは考えようだわ。そうよ、結婚してしまえば、ジーナは親から逃げられるじゃない」
「ファバーシウスがゆるす訳がないっての」
セロベルさんはグエンくんにティーポットを渡し、大儀そうにテーブルに着いた。ツァリアスさんがさっとまかないのお膳を運ぶ。まだ食べていなかったみたい。
「なんにせよ、これ以上のもめごとや隠しごとや、とにかく面倒なことは勘弁してほしいぜ。体が保たねえ」
それには、俺は完全に同意して、頷いた。ただでさえ、ほーじくんのことがひっかかっていて。
ああくそ。いまのなし。
お昼を食べて、お菓子を焼く。サキくんは厨房を離れない。
リエナさんが、パウンドケーキをぽこんと型から外した。彫金士さんに特注でつくってもらって、ケーキの型は沢山ある。
「ファバーシウス家は、どうしてジーナを迎えようとしないのかしらね。……いやだけど、仮に、ミューとジーナとの子どもの魔力が低かったとしても、色々とやりようはあるでしょうに」
「ファバーシウスは、当主が妾も愛人ももたないことが多い。ランツィスには許嫁と恋人が居たから、早死にしそうで縁起が悪いってな」
えっとリエナさんがセロベルさんを見る。セロベルさんは、パウンドケーキにいれる為に、出がらしのお茶っ葉を切り刻んでいた。
「ランツィスの恋人って、フィーナーナじゃないの?」
「ああ。恋人はな。それと別に、リューヴァって云う許嫁が居た。許嫁と恋人は仲が好かったらしいが、最後までランツィスに同行していたのは、拳闘家だったフィーナーナのほうだ。みんな、癒し手だったリューヴァのことは忘れちまってる。でも、リューヴァが長く生きて、そのおかげでランツィスの子ども時代のことが解ってるんだぜ」
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